2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J40041
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Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
古田 茜 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所 フロンティア創造総合研究室, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 鞭毛・繊毛運動 / 軸糸ダイニン / DNAナノ構造体 |
Outline of Annual Research Achievements |
筋肉の収縮・弛緩や、精子の鞭毛運動など、生物が繰り返し発生する力や振動運動は生物分子モーターという素子の集合体によって引き起こされている。過去の研究から,一分子の生物分子モーターではブラウン運動様の弱い運動しか起こせず,これらが集まって多分子化することで初めて機能を発揮できることが分かってきた。この協同現象のメカニズムを明らかにするために、本研究では、すでに性質が良く分かっている最小限の生物材料を使って実際に鞭毛のような「機械」を創ることで、各々の素子がどのような特性を持つときにどのような創発が可能であるかという対応関係を調べることを目的としている。具体的にはDNAナノ構造体をテンプレートとした高精度タンパク質配置技術を利用して、鞭毛運動の駆動素子である生物分子モーター、ダイニンを一定間隔で配置し、鞭毛の構造をまねたミクロン以下のサイズのアクチュエータ―を試作する。このアクチュエータ―が発生する駆動力を、素子の種類や間隔を変えて光ピンセットと呼ばれる装置で計測することで、鞭毛による自律振動の発生・制御メカニズムの本質に迫りたいと考えている。本年度は、鞭毛ダイニンをDNA上に整列させるために、特異的な結合タグ付きのダイニンの組み換え体を作製した。鞭毛運動研究のモデル生物であるクラミドモナスの変異体を用い、これに外部から遺伝子を導入する方法で、鞭毛外腕ダイニン複合体の一部にタグを導入した。このタグを用いて、ダイニンを鞭毛から精製することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数分子のダイニンを、その数や配置を知った上で精密に計測するために、本研究ではDNAナノ構造体と呼ばれる、DNA同士の特異的な結合によって自己組織的につくられる構造体を利用して、ダイニンを自在に配置する方法を利用する。このときダイニン側にはDNA上に配置するためのタグを導入する必要がある。ダイニンには大きく分けて細胞質ダイニンと軸糸ダイニンの2種類があるが、鞭毛・繊毛を駆動している軸糸ダイニンの組み換え体については、現時点で運動観察に必要な量を安定に発現することに成功しているグループは無い。細胞質ダイニンと軸糸ダイニンとの違いや、その違いが鞭毛・繊毛運動にどう影響を与えているかはほとんど明らかになっていないため、私は数年前から様々な方法で組み換え体の軸糸ダイニンを得る努力を行っている。その中で、鞭毛運動のモデル生物であるクラミドモナスを対象に変異体と、遺伝子導入法を用いて、組み換え体を発現させることに成功した。具体的にはクラミドモナス外腕ダイニン複合体の構成要素である中間鎖の欠損変異体を用いる。この変異体は、中間鎖を欠損するために外腕ダイニンそのものが軸糸から消失してしまい、その結果運動性が著しく低下する。この変異体に、外部から中間鎖にタグを融合した遺伝子を導入した。その結果、野生型と同等に運動性が回復した株が得られた。つまり、タグ付きの中間鎖を含む外腕ダイニン複合体が発現したことを意味している。導入したタグを使ってこの株から外腕ダイニン複合体を精製することに成功した。また、in vitro motility assayによって導入したタグを用いてガラス上に固定した外腕ダイニンによる、微小管の滑り運動活性を確認したところ、運動活性を維持していることも判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
軸糸ダイニンに遺伝子的に標識タグを導入することに成功したので、次のステップとして、これをもちいてDNAナノチューブにダイニンを整列させる。DNAナノチューブは、DNA同士の特異的な結合によって自己組織的に作られる構造体で、所望の位置だけに標識をいれることが可能である。したがって、ダイニン側の標識と、DNA側に配置した標識が特異的に結合するようにしておけば、両者を混ぜるだけで所望のダイニン-DNA複合体を作ることができる。既に予備実験でSST nanotube (Ying et al., Science 2008)と呼ばれるチューブ状のDNAナノ構造体を鋳型としてダイニン(この場合は細胞質ダイニン)を多数整列させて運動を観察することに成功している。DANナノチューブ状に整列したダイニン小集団の運動特性を測定するために光ピンセットと呼ばれる装置を用いる。光ピンセットは集光したレーザーによって微小なビーズを溶液中で捕捉し、その捕捉位置を動かすことで、ビーズに結合した試料に負荷を与えることや、ビーズに対して加えられた力の大きさを測定できる装置である。この方法を用いて、ダイニンの分子の数、間隔を変えた試料を作製し、ダイニンが引き起こす微小管滑り運動の速度、発生する力、ダイニンの運動方向と、その反対方向に負荷を掛けた場合での微小管からの解離のしやすさの違いを定量する。得られたデータを、理論モデルが要請するダイニンの性質に照らしてモデルを再構築し、ダイニンの力学応答と振動運動との関係を理解する。
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Research Products
(3 results)