2019 Fiscal Year Annual Research Report
戦争と音楽、音楽と平和ー「シベリア抑留」と日本人捕虜たちの文化創造活動ー
Project/Area Number |
18J40254
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
森谷 理紗 大東文化大学, 大東文化大学, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-01-04 – 2022-03-31
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Keywords | ロシア / シベリア抑留 / 異文化交流 / 収容所 / 文化政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
第二次世界大戦後、当時の満州等の外地にいた旧日本軍兵らがソ連軍によって主にシベリア各地の収容所に移送され、その後数年間労働力として抑留生活を送ることとなった「シベリア抑留」。本研究は、日本人の収容所での様々な文化的創造活動から「シベリア抑留」の文化的側面を捉えることを試みるものである。 本年度は、昨年度収集した資料を手掛かりとして、ロシア出張を遂行した。モスクワの国立軍事公文書館と国立公文書館を中心に、クラスノゴルスクの戦勝記念博物館、そしてハバロフスク市の軍事史博物館所蔵の一次資料調査および収集を行ったほか、ハバロフスク在住の元シベリア抑留者田中猛氏のインタビューを行った。 旧ソ連側撮影の写真集や、日本人が作成した楽劇団の活動報告書、帰国直前の日本人の感想文集等から、ソ連の政策と当時の日本人の関係性や、音楽(家)の果たした役割や位置付け、そして活動内容の全貌が具体的に明らかになってきた。 また、国内においては、兵庫県、大阪府、静岡県、秋田県、東京都に出張し、元シベリア抑留者の音楽家らのインタビューを行い、これまで詳細が知られてこなかった収容所内での外国人捕虜との文化交流や、日本人の楽劇団の活動内容に関する当事者の具体的な証言を得た。またシベリアの収容所で音楽に関わる活動をした故人の遺族から手記や楽譜等を入手し、収容所の楽団のメンバーの記録や、収容所内で訳詩、創作された曲が判明した他、帰還後に戦後の日本の音楽界の発展に尽力した音楽家の活動についても調査を行った。 これらの成果は東洋音楽学会東日本支部第112回例会(東京藝術大学、12月7日、「『シベリア抑留』における日本人捕虜たちの音楽活動」)や、『大東アジア学論集』第29号への論文投稿(「シベリア抑留下の日本人の文化活動―ロシアの公文書館所蔵資料を中心に」)で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの研究から主に次のことが明らかになった。 (1)1945年から1956年の日本人抑留者の各地の収容所における生活や文化活動の起こりとその展開についての具体的な様相(体験者インタビュー、ロシア所蔵の公文書より)。(2)政治的思想のプロパガンダを目的とした文化活動の具体的な体系が、日本人より先に軍事捕虜となっていたドイツ人ら外国人捕虜のために既に作られており、日本人収容所でもそれが踏襲されていた可能性が高い事。(3)収容所における演芸会・地方文化コンクールなどの楽劇団のプログラムや活動内容。(4)ドイツ人など他の外国人捕虜との文化的交流の詳細。(5)シベリア抑留中にロシア・ソビエトの音楽に触れた多くの日本人が、戦後の日本の音楽界で様々に活躍していった経緯(音楽教育、歌謡界、うたごえ運動など)。(6)文化コンクールで優勝した楽劇団の演奏などがラジオの短波放送で日本に流れていた事。 以上の事より、「シベリア抑留」における日本人捕虜たちの文化創造活動の全貌が明らかになってきていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
R1年度までの研究成果をもとに、さらに資料分析を加え研究を進める。前回の現地調査で調査しきれなかったロシア側資料については、状況に応じて現地の協力者や専門家と連携を取りつつ調査を継続していく予定である。 今年度は、さらに「シベリア抑留」における日本人の音楽文化体験と日本の戦後のポピュラー音楽への影響や、戦前・戦後の日本の大衆音楽活動の形態との関連性や連続性についても考察を広げる。 研究成果は逐次論文や学会発表などの場で発表しつつ、単著の執筆を進めていく。
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