2020 Fiscal Year Annual Research Report
戦争と音楽、音楽と平和ー「シベリア抑留」と日本人捕虜たちの文化創造活動ー
Project/Area Number |
18J40254
|
Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
森谷 理紗 大東文化大学, 国際関係学部, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2019-01-04 – 2022-03-31
|
Keywords | シベリア抑留 / 音楽 / 演芸慰問団 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、特別研究員は新型コロナ禍で予定されていた海外出張を延期することになったが、国内での資料収集・精読・分析に努めた。その結果、これまで知られていなかった収容所の楽劇団の演奏のラジオ放送や、収容所における日本の演芸慰問団のレコードの存在などが判明し、シベリア抑留におけるメディアを通した文化的繋がりが明らかになってきた。 そこで、前年度のロシア出張で収集した資料をもとに、論文「シベリア抑留下の日本人の文化活動―ロシアの公文書館所蔵資料を中心に」(『大東アジア学論集』29号、2020年8月)を発表したほか、シベリア抑留を記憶および地域横断的視点から捉え、戦前の日本のプロレタリア文化運動や厚生運動、満州における日本人の音楽体験という切り口から、査読付き論文「満州・シベリア・日本を繋ぐ人々の音楽の記憶と文化表象―元シベリア抑留者たちの地域横断的音楽体験を中心に」(『アジア太平洋レビュー』17号、2020年11月)を発表した。さらに、日本ポピュラー音楽学会第32回年次大会(2020年12月)に「日本人のシベリア抑留体験と戦後の日本ポピュラー音楽史における展開―三波春夫を中心に―」が採択され、口頭発表を行なった。 このほか、2021 年10 月に開催が予定されているロシア科学アカデミー主催の国際会議「古代から21世紀までのロシアの歴史:問題・議論・新たな視点」(2021年10月開催予定)に研究テーマが採択された。昨年から引き続き単著も執筆中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、コロナの影響により当初予定されていた海外出張や国内の遠方出張、また高齢の元抑留者の方々との直接的なインタビューを遂行することが困難であったため、国内で以下のような研究活動を実施した。 本年度前半は、前年度にシベリア抑留中に文化コンクール入賞者の演奏がモスクワ放送ハバロフスク放送局からラジオの短波放送で日本に流れたという情報を得たことから、それを裏付ける資料や録音を探した。日本とロシアの放送局やアルヒーフに問い合わせた限りでは録音はすぐに消されるため残っていないとの回答であったが、当時のモスクワ放送アナウンサー木村慶一の手記『対日モスクワ放送局員の手記:モスクワ・日本・ハバロフスク』から、1947年9月からシベリアに抑留された日本人の安否を日本に伝える「おたより放送」が開始されたことや、「収容所楽団のおたより演奏会」として2本の録音が抑留中の映画人滝口新太郎を司会に据えてハバロフスク放送局で収録されたこと、またその曲目等が判明した。 上記に加え、シベリアで発行され収容所で配られた歌集『ソヴェート歌曲集(附)日本闘争歌集』について、曲目が戦前の日本プロレタリア音楽家同盟の歌のレパートリーに基づいているのではないかという仮定から1930 年発行と1931 年発行の2冊の『プロレタリア歌曲集』等4つの歌曲集の曲目や歌詞の比較を行なった。戦前の日本のプロレタリア芸術活動との繋がりが『ソヴェート歌曲集』にも見出せるという結論に至った。 本年度後半には、戦前満州に居住し、戦後シベリア抑留された日本人の音楽体験について調査する中で、カザフスタンのカラガンダ地区に抑留された元抑留者の遺族から有益な情報や資料を提供していただいた。前年度にインタビューした笹井作造氏(満州で白系ロシア人にバイオリンを習いカラガンダで抑留生活を送った人物)のインタビュー記録等と合わせて論文2本を執筆した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、前年度モスクワのアルヒーフで出会ったレコードが日本からの慰問団「わらわし隊」のものであったことが判明したことを受けて、来年度もシベリア抑留者と慰問演芸との関連を現在引き続き調査する。 また、現在記憶と記録の研究について様々な先行文献や近似分野の研究にあたっており、中でもアウシュビッツにまつわる戦争の記憶について研究したアライダ・アスマンの『想起の文化』を参照し、研究手法を研究に取り入れる予定である。 このほか、収容所における音楽以外の文化活動や期間後の元抑留者について、詩人石原吉郎や画家香月泰男、四國五郎らの作品の調査を現在行っており、2021年にモスクワで行われる学会で成果を発表する予定である。 さらに、現在本研究テーマでの単著を執筆中であり、次年度も続行する。 使用しなかった海外出張費は来年度に繰り越し、場合によっては最終年度に予定しているアウトリーチ活動や、ロシアの研究者への資料収集依頼に役立てることを検討する。
|
Research Products
(3 results)