2019 Fiscal Year Research-status Report
現代諸学にまつわる問題解決のためにクザーヌスの「無学者の思想」を活用する試み
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18K00021
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Research Institution | Toho Gakuen School of Music |
Principal Investigator |
八巻 和彦 桐朋学園大学, 音楽学部, 特任教授 (10108003)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 無学者の思想 / 新人世 / 壮大な無責任状態 / パンデミック / 持続可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、以下の点を明らかにした:(1)前年度の研究の成果としての〈新人世〉Anthropoceneとしての現代に注目するという視点は、さらに、人類は「新人世」をいかに生きるべきか、という問題設定へとつながった。これは、さらに〈持続可能性〉Sustainabilityの研究へと展開されるべきものでもあることも判明した。 (2)同じく前年度の研究成果としての、現代社会におけるで「専門家」と「素人」の錯綜した関係の剔抉を基礎として、実際に自然科学者および技術者が参加するワークショップ(2019年12月17日、於ドイツ・Biberach大学)において講演を行い、特にこの構造が生み出す壮大な<無責任状態>を説き明かすことで、聴衆から有意義な意見をもらうと共に、講演内容に対して賛同を得た。 (3)本研究課題の中核であるクザーヌスの『無学者の思想』のさらなる探究のために、2020年3月19-21日にブエノスアイレス大学において国際会議(八巻和彦、Claudia D’Amico、Harald Schwaetzerの共催)を計画し、準備を進めていた。しかし、新型コロナの蔓延により、学会の実行を延期せざるをえなくなった。 (4)上記のアルゼンチンでの学会の準備は、研究代表者が2019年9月に米国クザーヌス学会で招待講演をした際に、諸外国から参加した同僚研究者と準備を進めたものである。 (5)さらに、新型コロナの地球規模での蔓延という事態は、本研究課題とも無縁ではないことにも気づかされた。つまり少数の「専門家」と大多数の「素人」が、いかなる関係においてこのパンデミックに対応すべきであるのか、また、このパンデミックの成立はまさに上記の〈新人世〉という時代状況と密接に関わっているはずだという視点である。この視点は来年度(2020年度)の研究においても保持しつつ、研究と考察をさらに深める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題「現代諸学にまつわる問題解決のためにクザーヌスの『無学者の思想』を活用する試み」に関する八巻和彦(研究代表者)自身の研究は、上記のような成果を生み出しているが、事前の計画よりも遅れ気味である。その主たる理由は、新型コロナのパンデミックにより国際的な人の移動が不可能となって、上記のように3月下旬に予定していた学会を延期せざるをえなくなったことと、2020年度に入ってもなお同様の状態が続いていることである。しかし研究代表者が単独で行える研究としての文献研究ならびに研究課題についての考察は、継続的に進めていることは言うまでもない。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)アメリカ合衆国ならびにドイツおよびイタリアで刊行される三種の学会誌の2020年8月末締め切りの号に、三本の研究論文を招待論文として投稿する。これらは、昨年度の活動の成果であると共に、昨年度末に新型コロナの影響で中止された学会で発表予定の論文でもある。(2)2019年末に発生して以来、未だに終息していない新型コロナのパンデミックについて、本研究課題の視点から、とりわけ〈新人世〉Anthropoceneならびに〈持続可能性〉Sustainabilityという視点から、注視しつつ資料を集め考察を深める。(3)2020年11月7-8日にリモート形式で開催されることになっている中世哲学会大会(主会場・慶応義塾大学)において「クザーヌスの〈イディオータ〉思想の現代的意義」と題する研究発表を行う(この発表はすでに審査を経て確定済みである)。また、この研究発表は、本研究課題「研究計画調書」3頁の「平成32年度の研究計画」に記してあることの実行である。(4)今後の新型コロナ・パンデミックの状況にもよるが、国際的な人の移動が可能になれば、2020年度末までに2019年度に実施できなかったブエノスアイレス大学における国際会議を実施したいと考えている。(5)同様に新型コロナ・パンデミックの状況にもよるが、ドイツ、イタリア等の研究者と連携してヨーロッパにおいて本研究課題についての締めくくりのワークショップを、2020年度末までに開催したい、と考えている。 (6)同様に新型コロナ・パンデミックの状況にもよるが、2020年度末までに佐々木力氏、吉見俊哉氏を訪問して、現代における学問研究にまつわる問題性について教示を受けたい、と考えている。
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Causes of Carryover |
共催者として2019年3月に実施を計画していたアルゼンチンのブエノスアイレス大学での国際会議が、新型コロナのパンデミックによって延期せざるを得なくなったので、共催経費の支出がなくなった。パンデミックの終息状況にもよるが、この国際会議を2020年度に実行できれば、次年度使用額をその際に使用する。
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