2019 Fiscal Year Research-status Report
Jacques Derrida and the Questions of religious philosophy
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18K00050
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
守中 高明 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80339655)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 他力 / 赦し / 信 / 内在/超越 / 贈与=施し / 自律的ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者が、研究計画書に記した最終目標である書き下ろし単行本を、すでに『他力の哲学――赦し・ほどこし・往生』(河出書房新社、2019年2月刊、全249ページ)として前年度末に刊行したことは、昨年報告したとおりである。2019年度は、一方で、同書の受容を促進しその反響に応えるべく、複数の媒体において対談・インタヴュー・エッセー執筆等の機会を与えられた。その成果は「10.研究発表」欄に記載のとおりである。また、書評紙等において肯定的・積極的な評価を複数得ることもできた。 他方で、この成果を踏まえて、2019年度は、本研究のテーマ「ジャック・デリダにおける宗教哲学の諸問題」の一部をなし、連続性を有する別の問題系へと発展的研究を遂行する最初の本格的期間であった。その主な問題系は(1)宗教的〈信〉における超越性と内在性の問い、(2)宗教的救済における「他性」の問い、(3)宗教的実践としての贈与=施しとそれが開く新たな社会的・自律的ネットワークの問い――である。(1)は、日本浄土教において天台宗的超越性に対する法然・親鸞による内在性への革命的転回として現象した問いであり、これはユダヤ教的超越性に対するイエス・キリストによる内在革命との比較考察を可能にする。(2)は、法然・親鸞・一遍へと徹底化されていった「他力」がいかに概念形成されたかという問いだが、これはエマニュエル・レヴィナスとデリダにおける他者の還元不可能な絶対的「他性」との比較考察を促す。(3)は、一遍が行なった「遊行(ゆぎょう)」に歴史的範例を見ることができる問いであり、その社会的意義はマルセル・モースからデリダへいたる「贈与論」の読み直しを必然化する。 これらの考察の集成は、別の著書としてすでに刊行が予定されている(「8.今後の研究の推進方策」参照)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は、本研究の申請時に立てた著書の出版計画をすでに完全に実現したが、そのことは、その成果を踏まえた新たな研究への展開を強く促すことにもなった。 2019年度に受けた新聞・雑誌媒体等の取材のほか、2020年度に入ってからも、同著書の延長線上にインタヴュー取材や講演の依頼が続いている(「現代の思想として親鸞を読み解く」『同朋』2020年6月号〔東本願寺出版〕、大谷大学真宗学会大会における講演〔2020年10月27日予定〕)。 それらに応じつつ、つぎの書き下ろし単行本の執筆を確実に進めるのが、現在の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
「5.研究実績の概要」に記した3つの問題系に加えて、本研究のテーマに包摂される大きな問題系として、ジャック・デリダと否定神学のあいだの錯綜した関係がある。デリダの著書『名を救う――否定神学をめぐる複数の声』(1993年)、論文「いかに語らずにいられるか――否認の数々」(『プシュケー 他なるものの発明』所収、1987年)で言及されたエックハルトからアンゲルス・シレジウスにいたるキリスト教神秘主義者たちのうちに見出される、言語化不可能な、しかしリアルな「他性」によって人間的理性の限界において人を〈信〉へと開くその力を、日本浄土教における「他力」と比較することで、宗教的〈信〉の本質をある角度から分析し明確化することができる。これらの研究を、さらに整序化した構成のもとで新たな書き下ろし単行本とする企画が、すでに河出書房新社の編集会議で承認・決定されており、早ければ2021年3月末、遅くとも2022年3月末までに同社より刊行予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していたフランスのアーカイヴ(IMEC:現代出版記録インスティテュート)での資料調査を行わなかったため「旅費」の支出がなかったこと、および、すでに収集した書籍・資料をもとに新たな著書の企画・構想ならびに執筆の一部開始に集中したため、新規の書籍等の購入が予想を下回ったことによる。 次年度は、新たな著書の執筆に際して、これまでに蓄積のない分野(特にキリスト教神学関連)の書籍・資料の購入を予定している。
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Remarks |
「研究発表」のカテゴリーに属さないものとして、つぎの2つがある。 1.守中高明+栗原康(対談)「他力の思想を生きる」(『図書新聞』2019年4月6日〔3394〕号、武久出版)。 2.守中高明(インタヴュー)「著者登場『他力の哲学――赦し・ほどこし・往生』」(『中外日報』2019年4月5日号、中外日報社)。
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Research Products
(4 results)