2021 Fiscal Year Research-status Report
Religions and Intellectual History of Religions in the Late Antique Mediterranean World
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18K00099
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高久 恭子 (中西恭子) 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (90626590)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 古代末期地中海世界の宗教史 / 新プラトン主義 / 初期キリスト教 / 西洋古典受容史 / キリスト教古典受容史 / 詩歌と宗教 / 近現代日本語詩歌 / 宗教学理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度前半は、11月に白水社から上梓した翻訳書、エドワード・J・ワッツ著『ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人』の校正作業と解説執筆に携わった。『ヒュパティア』は、ローマ帝国の宗教と知的状況の転換期となった4世紀末から5世紀初頭のアレクサンドリアで活動した新プラトン主義者・数学者ヒュパティアの事績とその歴史的意義をジェンダー史的な観点を加えて周辺の諸史料から解明しつつ、中世以降、非業の死をとげた女性知識人としてそれぞれの時代の文脈において伝説化されたヒュパティア像の形成過程を論じる書物である。古代末期地中海世界の宗教史と新プラトン主義における「生きられた宗教」の実態を伝える点でも、これまで日本語世界においては類書がなかった。本書の翻訳に付した「訳者あとがき」では、古代末期地中海世界における新プラトン主義とジェンダー研究の見取り図と現在の研究状況を解説として提示し、読者の理解の一助とした。 9月に関西大学を主催校としてオンライン開催された日本宗教学会第80回学術大会では、「西洋古代末期の宗教表象研究における「生きられた宗教」と感情史」と題して報告を行った。ここでは、歴史学における「感情史」の方法と研究動向を紹介し、従前からの課題である「生きられた宗教」理論とアクター・ネットワーク理論の適用可能性について論じた。 このほか、丸善出版から2022年に刊行予定の『キリスト教文化事典』の項目「教父文学」「中世のキリスト教詩」「近現代詩歌とキリスト教」「讃美歌の翻訳と新体詩」を執筆した。古代末期におけるキリスト教文学の射程と、古代末期から中世のキリスト教詩歌における聖歌史とキリスト教的寓意の援用の歴史を概説した上で、近現代日本における讃美歌・聖歌翻訳史と並走する新体詩以来の日本語詩歌におけるキリスト教表象の受容史の射程を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、2020年度につづいてパンデミック下での国内研究機関での文献調査に制約が大きく、遠隔授業運営と翻訳書上梓・事典項目執筆準備の両立に多くの工夫を要した。『ヒュパティア』上梓後には当初、今後の研究の方針を探るために、古代末期におけるジェンダーと宗教のほか、神話叙述・寓意の援用と継受に関連する包括的な文献調査を目的としてロンドン大学先端研究所内古典学図書館・ウォーバーグ研究所図書館ならびにブリティッシュ・ライブラリーへの出張を計画していたが、2021年11月はもとより、2022年2月に至ってもパンデミックの状況が改善せず、出張を断念せざるをえなかった。 このように、研究に大きな制約を与える予期せぬ状況はあったものの、『ヒュパティア』の刊行と刊行後の広報事業、さらには事典項目執筆の準備作業を通して、予想以上に広く古代末期地中海世界の宗教文化誌研究の潜在的な読者が日本語世界に存在する手応えを得た。古代末期地中海世界における宗教とジェンダーをめぐる諸問題のほか、西洋古典の継受と文学における寓意の援用を軸にして、中世以降の西洋古典受容史を射程に入れた古代末期地中海世界における教養文化と宗教の関係を明らかにするという観点からいままで研究してきた事例を整理し、今後の研究・執筆につなげる構想を深めるきっかけとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は本研究プロジェクトの最終年度であるため、「生きられた古代宗教」をいかに描くか、という視点に立ち、以下の論点に注目していままで研究してきた題材を整理し、構想中の一般読者向けのユリアヌスの評伝と、古代末期における新プラトン主義者の生態をめぐる単著の執筆につなげる。古代末期におけるジェンダーと宗教をめぐる諸問題を「生きられた古代宗教」の観点から書く方法と、効果的な成果公表の構想を具体化する。 (1)古代末期の教養文化における宗教と神話・寓意・歴史をめぐる語り (2)古代末期の教養文化と「宗教的帰属」を超える共有財産としての学知 (3)古代末期の教養文化におけるジェンダーと宗教、修養と教育 さらに、「古典の受容と継受の観点」から、ルネサンス以降における「古代末期の諸宗教」の描写と、キリスト教古典・西洋古典文学の再解釈の系譜について知見を深め、成果公開の方法と、文学・音楽実践との連携と機会を模索する。
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Causes of Carryover |
文献調査を目的としてロンドン大学先端研究所内古典学図書館・ウォーバーグ研究所図書館ならびにブリティッシュ・ライブラリーへの出張を予定していたが、2021年11月・2022年2月もともにパンデミックの状況が改善せず、出張を断念した。 残額は物品費(文献・消耗品購入費)およびその他(学会費・学会参加費)として利用する。
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Research Products
(3 results)