2020 Fiscal Year Research-status Report
言語学者バンヴェニストの思想:「話す」行為・経験の多面性を考える
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18K00110
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小野 文 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 准教授 (00418948)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ソシュールとバンヴェニスト / 言語学的概念と翻訳 / ことばにおける主体性 / 中動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、予期せぬコロナ感染症の長期化のため、調査活動・研究活動・執筆活動の全ての面において、大きな影響を被った。 調査活動に関しては、海外渡航は禁止されていたため、フランスでの調査は断念することとなった。また海外の研究者と協力しておこなっている共同研究は、すべてキャンセルされた。国内の大学図書館に関しても,閉鎖や一部制限を設ける大学が多く、十分な資料調査は行えなかった。研究活動・執筆活動においても、教育活動に多くの時間を割かざるを得なかったため、大幅な遅れが見られた。結果的に、2021年度に本研究は持ち越すことになり、延長申請を行った。 このような状況のなか、エミール・バンヴェニストにおける「話す」という動詞の重要な側面と思われる「中動態」の概念について、同じ概念に関心を持つ研究者たちと勉強会を行い、その中で研究発表を行うことができたのは1つの成果である。研究代表者は言語学における「中動態」の先行研究について、またバンヴェニストの「中動態」論文が、彼のその他の論考と、どのように有機的につながるのかについて、2つの研究発表を行った。また勉強会のなかでは、「中動態」に関する思想・哲学分野の研究や、文学・心理学分野の研究についても知識を得ることができた。この「中動態」に関する研究は、本研究のテーマでもあるバンヴェニストにおける「話す」行為・経験の多様性の解明につながるものである。 他方、キーワードにも挙げられている、バンヴェニストの先達の言語学者、フェルディナン・ド・ソシュールについて、とりわけ彼の異言研究について、論文を書くことで、「話す」という経験がとりうる特殊な形態についても考察することができた。この成果は文芸誌『ユリイカ』に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前述のように、コロナ感染症の世界的な蔓延により、国内外における調査活動や研究活動のほとんどがキャンセルとなったり、また思うように進捗しなかったことによる。初めて取り組んだオンライン授業の準備に普段の倍以上の時間がかかってしまい、研究・執筆時間がほとんど取れなかったということもある。
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Strategy for Future Research Activity |
延長申請をした2021年度においても、感染症に関しては同じような状況が続くと思われるが、今年度はさまざまな困難を見越して、できる限り研究を進めていくこととする。現在考えているのは、海外の調査活動に関しては、もし現地の資料館が開館していれば、海外の研究協力者に謝金を支払い、複写作業をお願いすることである。また研究・執筆活動に関しては、昨年の経験を踏まえて、できるだけ時間をとれるように工夫していくつもりである。
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Causes of Carryover |
予想しなかったコロナ感染症長期化に伴い、研究計画を大幅に変更したのが主な理由である。2021年度、もし海外渡航が許される状況になれば、一回は調査旅行を考えているが、それが無理なようなら、海外の研究協力者に協力をあおぎ、資料調査を手伝ってもらう。その際には人件費・謝金を支払う予定である。 また職場以外の場所で研究活動を行う時間も増えたため、移動先でも研究が続けられるよう、軽量のタブレット型パソコンを購入する計画である。
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