2018 Fiscal Year Research-status Report
いかにして「内面の自由」を保つべきか──モンテーニュの現代的意義と死、異端、主権
Project/Area Number |
18K00111
|
Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
小森 謙一郎 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (80549626)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 内面の自由 / 死 / モンテーニュ / アーレント / ツヴァイク / ユダヤ人問題 / パレスチナ問題 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究目的は、『エセー』における内的自由を「死」という観点から考察し、その現代性・重要性を示すことにあった。そのため、シュテファン・ツヴァイクのモンテーニュ論を手がかりに、現代思想・哲学分野における知見も参照しつつ、なぜ今モンテーニュが重要なのかを明らかにする計画を立てていた。ツヴァイクはブラジルで自死する直前までモンテーニュ論を執筆していたが、背景にはもちろん全体主義の脅威と亡命という出来事があった。法的保護が失われたときにはじめて彼は『エセー』の価値を悟ったのであり、法の外で「内面の自由」を保持しえたモンテーニュを範としたのである。 そこで本研究では、ユダヤ人問題に関するツヴァイクの非政治的態度を批判したハンナ・アーレントを参照し、今日の観点からすれば、むしろツヴァイクとモンテーニュの方にアクチュアリティがあることを示した。「生は他人の意志次第」と考えたモンテーニュは「死ぬ自由」こそ重要だとしたが、「死ぬ自由」を保持する以上、実際には死ぬことができない。全体性に依拠しない「内面の自由」はここに場を持ち、シオニズムに関わることなくディアスポラを貫いたツヴァイクは、その理念をモンテーニュ論のうちに結実させたのである。 また以上の過程でアーレント自身の政治性も掘り下げて検討する必要性に直面し、ユダヤ人問題とパレスチナ問題を連続するものとして考察するに至った。とりわけ後者に関するアーレントの姿勢については、一般的に流布している見解を「学問の自由」という観点から考え直すべきであることを示した。さらに、それは「内面の自由」に遡る思想史的問題でもあるため、一連の問題を人権問題として考察した(執筆依頼を受けた図書に掲載予定)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
結果として、本年度の目的を達成できただけでなく、その過程で直面した検討事項について、研究全体につながる形できわめて有意義に処理できたことから、当初の計画以上に進展していると言うことができる。とくにユダヤ人問題とパレスチナ問題を連続するものとして考察したことで、本研究の今日的意義は非常に深まったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述の成果と進展を引き継ぎながら今後も研究を進めていく。当初の計画通り、次年度以降に主として焦点をあてるのは「異端」や「主権」といったテーマになるが、本年度に計画以上に進展した部分を活かす形で、1492年以降のヨーロッパからユダヤ人問題を経てパレスチナ問題に至る流れを踏まえ、同時に最新の国際情勢や国内外における関連分野の研究動向にも留意しつつ、研究のさらなる深化・発展を図る。
|