2020 Fiscal Year Research-status Report
いかにして「内面の自由」を保つべきか──モンテーニュの現代的意義と死、異端、主権
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18K00111
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
小森 謙一郎 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (80549626)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 内面の自由 / 主権 / モンテーニュ / フロイト / アライダ・アスマン / ホロコースト / スターリニズム / ナクバ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、モンテーニュにおける「内面の自由」とはいかなるものなのか、その現代的意義を示すための基礎研究を行った。具体的には、1)モンテーニュが置かれていた歴史的文脈を踏まえ、2)主権的自由と対比しながら考察する、という2点を軸にして研究を進めた。 1)については、前年度までの研究成果を発展させる形で、1492年以降の世界史的潮流のなかでユダヤ人問題からパレスチナ問題へとつながっていく文脈に着目した。とくに重点的に考察したのは、フロイトにおけるボアブディルの形象である。ボアブディルはヨーロッパ最後のイスラム王であり、レコンキスタ完了の象徴でもある。その後キリスト教ヨーロッパ社会が形成されていくなかで、ボアブディルはときに侮蔑・嘲笑の対象となった。これはサイードの言う「被害者を非難する」現象にほかならない。だが、ナチスの脅威を前にしたユダヤ人フロイトはキリスト教ヨーロッパ社会に見られるこの姿勢を反復しており、その理由・内実を検証した。 2)については、そのフロイトを踏まえたアライダ・アスマン『想起の文化に対する新たな居心地悪さ──一つの介入』にとくに着目した。アスマンがこの本で行っているのは、ホロコーストにまつわる「想起の文化」に対する「一つの介入」である。そこではアーレントがカサンドラに喩えられており、その先駆性が評価されている。さらにアスマンはイスラエルの政策批判という「タブー」に取り組む姿勢も見せている。これらを主権的自由とは異なる別なる自由に向けた一歩として捉え、とりわけアジア地域で依然として根強いスターリニズムの遺産とパレスチナで現在なお進行中のナクバを視野に入れつつ、その今日的意義を示した。 以上の2点を軸とする思想史的観点からモンテーニュの内的自由を捉え直すための土台を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の影響が非常に大きかった。とくに年度前半は物流も滞りがちで、図書館などの利用も困難だったため、文献の入手さえ容易ではなかった。年度後半から盛り返すことができたものの、すべてを当初の計画通りに進めるまでには至らなかった。ただし、上述の2点に関わる研究は本格的に深めることができ、当初考えていたよりも広く豊かな知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の成果と知見を踏まえた形で目的達成に向けて研究を進めていく。コロナ禍の影響はまだ残るが、引き続き「主権」に焦点をあてる。「自由意志の理念」としての主権概念の限界は、ショアー、スターリニズム、そしてナクバによって歴史的に示されている。以上の観点から、主権的意思とは異なる「内面の自由」について、モンテーニュとその後の思想史的展開を念頭に置いて考察する。関連分野の研究動向や国際情勢にも留意しつつ、その現代的意義を示す。
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Causes of Carryover |
進捗状況欄に記載したように、図書館利用や移動・渡航の制限などコロナ禍の影響により当初の計画通り研究を進めることができなかったため次年度使用が生じた。本年度までに得られた知見と成果を発展させ、研究目的達成のために必要となる文献・物品等の購入に充てる。状況が許せば、前年度に断念した調査出張の実施も検討する。
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