2021 Fiscal Year Research-status Report
いかにして「内面の自由」を保つべきか──モンテーニュの現代的意義と死、異端、主権
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18K00111
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
小森 謙一郎 武蔵大学, 人文学部, 教授 (80549626)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 内面の自由 / ホロコースト / ナクバ / ミクロストリア / 対位法 / 人間性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主権的意思とは異なる「内面の自由」について、その差異がどのようにして発現されうるのかを考察した。とくに「内面の自由」の現代的意義と思想史的展開に焦点をあてながら研究を進めた。 現代的意義に関しては、前年度までの研究成果を踏まえつつ、主としてホロコーストとナクバという二つの出来事を軸に考察した。これらはともに国民国家の主権的意思を発動した結果であり、その災厄を被った人々の側には「自由意志の理念」としての主権性には還元されない「内面の自由」が見出されるはずである。こうした仮説のもと、2018年に刊行された論文集『ホロコーストとナクバ』(バシール・バシール/アモス・ゴールドバーグ編)に着目、いくつかの論考から非常に大きな示唆を得た。とくに一般人の言動を取り上げたアロン・コンフィノの論考には、「内面の自由」の本来あるべき姿が示されていると思われる。また方法論的にはミクロストリアの観点を本研究課題に応用できることが認識できた。あわせてエドワード・サイードが提唱していた対位法的読解の理論的射程と今日における有効性も確認できた。 以上を踏まえ、思想史的展開に関しても、より一般的な観点から取り組む必要性があると考えるに至った。いわゆる思想書や哲学書に立脚した歴史的展開のみならず、さらに民俗学的・人類学的な視点も取り入れることができるし、そうすべきだということである。とくに『エセー』の場合には、非常に多くの学術書が引かれている一方、モンテーニュ自身のことについてはみずからの考えをありのままに述べようとする傾向が強い。とすれば、『エセー』におけるこうした側面を捉えるにあたっては、民俗学的・人類学的アプローチも有効だろう。いかにして「内面の自由」を保つべきかは「人間性」の問題と不可分であり、その考察に必要となる理論的・方法論的知見を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
引き続きコロナ禍の影響があったことは否定しえないが、コロナ禍を前提とした上でのペースは見出したと考えている。最新の知見とともにミクロストリア的・対位法的な観点を取り入れることができたことは大きな進展であり、全体的な視点からするとおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに得られた成果・知見を土台とし、目的達成に向けて考察を深めていく。引き続き主権的意思には還元されない「内面の自由」を析出することに重心を置く。他方でこれを宗教的信仰心や政治的信念から区別する必要もあるため、関連分野の研究動向や国際情勢にも留意しつつ、研究を進める。
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Causes of Carryover |
視野に入れていた調査出張がコロナ禍のため実施できず、研究期間を延長したため次年度使用額が生じた。状況に応じて調査出張をあらためて検討し、やはり難しそうであれば目的達成のために必要となる文献・物品等の購入に充てる計画である。
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