2021 Fiscal Year Research-status Report
被差別部落からのアメリカ移民に関するトランスナショナルな歴史経験についての研究
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18K00115
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
廣岡 浄進 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 准教授 (30548350)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
友常 勉 東京外国語大学, 大学院国際日本学研究院, 教授 (20513261)
関口 寛 四国大学, 経営情報学部, 准教授 (20323909)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日系人強制収容 / 日本国憲法 / 人種主義 / 部落差別 / 文化交流史 / 移民 / 情報化 / 部落差別解消推進法 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の廣岡は、朝治武、黒川みどり、内田龍史共編著『講座 近現代日本の部落問題』第1巻『近代の部落問題』に、「越境する人の移動と被差別部落」を執筆した。これは、近代初頭からの部落からの移民送出やあるいは移民論を概観した上で、ハワイを含むアメリカ移民について新聞史料や第二次世界大戦下の日系人強制収容にかかわる調査記録等から日系移民における部落差別を明らかにし、さらにWRA(戦時転住局)の調査関係者が部落差別に強い関心を示していたこと、これが戦後の日本国憲法制定にあたってのGHQ草案につながる可能性を論じたもので、2019年の渡航調査における研究交流の成果を活かしつつ両分担者の研究成果を発展させたと言える。 さらに、廣岡と研究分担者の友常は、サンフランシスコ州立大学エスニックスタディズ学部アジア系アメリカ人研究学科において運営されているエジソン・ウノ記念ウチナンチュおよび日系研究所を中心に組織された日米の国際シンポジウムの企画立案の段階から参画し、セッション「Buraku Immigrants Studies」(部落出身移民研究)を担当するとともに、3日間にわたった企画の討論などに参加した。なお、このシンポジウムでは、廣岡が所属している大阪市立大学人権問題研究センター(エスニックスタディズ学部とは長年の交流協定を有し、これを基礎に当年度から大学間協定が締結された)と友常の科研費研究とが共催に入り、経費を分担した。 また、廣岡は並行して、本研究の発表環境に関わる基礎的研究として、部落解放論研究会での報告をもとにした論考「古地図と地名について: 情報化と部落史研究の課題」を論集『続・部落解放論の最前線』に執筆し、また大学教育の視点から部落差別解消推進法施行後の情況に批判的考察を加えた論考を月刊誌『部落解放』の特集「部落問題学習の歴史と現状」(高田一宏責任編集)に寄せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究補助期間の開始から4年目となる本年度にかけて、研究代表者および両分担者において、それぞれ本研究課題に関連する研究成果が出揃ったことで、COVID-19パンデミックに起因する補助期間の延長はあったものの、共同研究としては一応のまとまりがついたものと考えている。 なお、本年度においては、本研究課題での経費負担ではないが、分担者の友常は所属大学のサバティカルを利用して別途2021年秋よりサンフランシスコ州立大学訪問研究者として渡航し、約半年間の調査研究にあたった。研究代表者の廣岡は、本研究課題を基課題として採択された科研費の国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))課題番号19KK0297「日系アメリカ移民をめぐるトランスナショナルな歴史経験の重層性に関する文化交流史」の交付をうけて現地合流し、同じくサンフランシスコ州立大学訪問研究者として約1年間の滞在研究を開始した。その中間成果としては、前述のシンポジウムがあげられる。 おおむね、ここまでの調査研究によって、敗戦後の占領下での日本国憲法制定過程におけるGHQ草案に部落出身のアメリカ移民の被差別という歴史経験が反映されているのではないかという本研究課題の作業仮説が妥当であることが見えてきた。つまり、先行研究の関心のひとつには、全国水平社の中央委員長であった松本治一郎が敗戦直後に衆院議員としてGHQにはたらきかけたことでGHQが部落問題を認知したという説の真偽があり、面会を裏づけるような史料や聞きとりが得られないという論点があったが、その議論はほぼ決着したと考えている。WRAによる日系人収容所での調査において部落差別が記録されていることと、部落差別に調査関係者が感心を示していたことを本研究が解明したことで、その焦点は第二次世界大戦(アジア・太平洋戦争)下におけるアメリカ合衆国の日系人強制収容政策に絞られたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19パンデミックのため、残経費が執行されず、かつまた他の用途への流用もなかったため、特例を利用して再延長を判断した。2020年春以降、国内でも長距離移動の自粛がそれぞれの勤務先大学で要請された結果、国内でも史料調査や聞きとり調査が進捗せず、さらに対面での研究会開催が制約されたことなどから、共同研究として十分な議論ができていないままそれぞれが個別に研究を進めざるをえなかったという課題をのこしている。そのため、研究分担者両氏の協力も得ながら、前述の国際共同研究強化(A)科研費研究を活用して本研究課題を発展させるとともに、帰国後には本研究課題についてひとまずの区切りとして成果をまとめることをめざしたい。 前述のとおり、本研究の焦点は日系人強制収容に設定された。強制収容についてはアメリカで相当な研究蓄積があるので、とくにアメリカの日系研究者との共同研究および研究交流を通じて、重要文献の把握に努める。 論点は戦時強制収容そのものの解明に関わっている。すなわち、強制収容政策そのものが日本占領を準備するものであったとすれば、一連の被収容者への調査はいかなる位置づけがされていたのか、また調査そのものがどのように進められたのかや、収容所内でどのように部落出身者が可視化されたのか、収容所の中で何が起きていたのかを、明らかにする必要がある。 同時に、個別具体的な渡航史の解明も待たれる。このための事例研究については、すでに調査に着手しているところであるが、アメリカ側での入境にかかわる渡航記録をサンフランシスコ国立文書館などで探求する。あわせて送出側の日本での調査も進めることで、渡航の経緯などを明らかにしたい。また、関係者への聞きとり調査も引き続き模索する。
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Causes of Carryover |
COVID-19パンデミックのために調査旅行ができず、特例措置を利用して繰越すこととした。本年度の調査旅行をめざすが、それができなかった場合には本研究課題の成果まとめに要する経費に充当することも検討する。
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Research Products
(6 results)