2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00152
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
上村 博 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (20232796)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 風景 / 東アジア / 植民地主義 / ピクチャレスク / 郷土 / 芸術教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の本研究は、1900年前後に地域を表現する際にしばしば期待された「地方色」の定型的なパタンがどのような美学的系譜を持っているのか、また「地方色」という西洋で作られた概念が、どのようにして東アジアなど非西洋に伝播していったのかを、特に風景画に関して考察した。 地方の特徴を顕著に表現する風俗を芸術作品で扱うことは古くから行われていたが、19世紀以降は、「地方色」と現実の土地との関係が強く意識されルようになった。それには、土地の拡がりを「ピクチャレスク」な、あるいは絵画的な鑑賞対象として眺める態度が普及したことが大きく与っている。ピクチャレスクは風景の紋切り型と言っても良いが、そこに地域固有のモチーフを添えることで、わかりやすいさまざまな地方色豊かなイメージが作られた。 そして19世紀末から20世紀初頭にかけて、植民地を本国の辺境にあって、進歩途上にある(遅れた)地域として描く、いわゆるオリエンタリズムの異国表象も、この地方色を大いに利用している。従来、このような紋切り型の地方色は、植民地の芸術家にとっては、押しつけられたもの、あるいはやむをえず迎合したものという否定的な位置づけがされてきた。しかし、伝統的な芸術表現とは別の表現語法を用いて、あらためて自らの土地の「地方色」を描くことは、単にあてがわれた紋切り型の再生産に終わるものではない。たしかに一方では、植民地の現地人画家たちは、地元に開設された美術学校や宗主国での留学先で西洋風の紋切り型の風景表現を学ぶことで、植民地の同化政策の優等生として振る舞った。しかしまた同時に、そのことで、自らの土地を他国と互換性のある新しい語彙によって語る手段を手に入れた。地方色豊かな紋切り型表現を用いること自体が、彼らの土地を意識的に対象化する契機となったことは評価すべきであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はほぼ順調に進んでいるが、アジアや日本のセルフイメージ形成については、観光ガイドブックなどでの景観描写も検討する必要性がある。その点は引き続き調査したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は地方色の定型表現のヨーロッパでの成立と、それが紋切り型のイメージを量産したにもかかわらず、それが有する近代的な批判性に着目したが、今後は東アジア、そしてまた日本において、そのイメージがどのような媒体、経路によって伝播したのかに注目したい。 具体的には、次の2方面での作業を予定している。ひとつには東アジアでの商業デザインでの地方色表現についてである。19世紀末からの新しい媒体として、出版や印刷により土地の風景を広く伝えるポスターや挿絵、絵葉書類が大きな役割を果たした。もっぱら外来の旅行客向けに作られた地方色を描いた画像も、やがて現地の人間の手で現地の人間向けに対して作られるようになる。それらの商業デザインが土地のどのような要素を抽出し、特にどのような表現様式を好んだのか、またそう土地の像を作り上げ、誰がそれを受容したのかという、イメージ形成過程を辿ることとになる。 もうひとつは、「美術」という枠組での地方色である。東アジア諸国で20世紀に作られた美術教育機関の教育内容を調べることである。それは学校の教材や卒業生の作品の傾向を分析することであるが、また同時に現地で開催された展覧会での評価にも関わる。この東アジアの芸術教育の問題は各国さまざまな事情があるうえに、研究期間内にすべてをつぶさに調査することは不可能であるため、特定地域に絞って継続的に調査したい。
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