2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00152
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
上村 博 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (20232796)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コレクショニズム / 風景 / 植民地主義 / ピクチャレスク / 郷土 / 芸術教育 / 地域性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は土地への関心の2種のありかたについて問題とした。すなわち、ひとつには外部からの訪問者による一種の審美化作用としてのコレクショニズム的関心についてである。これについては7月に行われたセルビアでの国際学会で発表した。もうひとつは、それと関連するが、各地での「地方色」意識の芽生えについてである。19世紀後半から20世紀初めにかけては西欧諸国が植民地をさらに拡張していった時期だが、そこでは同時に西洋近代のアカデミックな絵画表現も植民地の文教政策のなかで移植されていった。それが地方色の意識と表現にどのように関わったのか、という点が中心的な問題意識である。これについては所属機関の研究紀要で発表を行った。研究で得られた知見のあらましについては以下のとおりである。 西洋的な画法の導入は、単に西洋絵画の亜流が各地で増えたということに繋がったわけではない。東アジアの詩文や絵画の世界でも、すでに17世紀には、それまで主に古典的教養の世界で培われてきた場所に替えて、身近な現実の場所が観察対象となり、作品主題となっていた。そこに19世紀後半に新しい表現媒体として西洋的な絵画技術が入ったことは、ひとつには、新しい視覚的な描写の手段によって、それまでの卑近で親密な世界の観察がさらに促されたという結果をもたらしたであろうし、またひとつには、芸術家たちが異文化と触れることで文化的アイデンティティを刺激され、その拠り所としての郷土、国土というものを強く意識するきっかけになった。北アフリカでも、東南アジアでも、さらにはヨーロッパ内部でも、地方色は審美性と政治性とをふたつながらに持っているが、いずれも土地に対する個人の新たなフェティッシュな感性と帰属願望の誕生を示していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、研究計画はほぼ予定通りに進められている。これまでの研究では、主に美術学校や展覧会といった公的なステイタスのある作品を中心に考察してきたが、土地の表象を広く普及させた媒体として出版物や観光ポスターの存在は無視できないため、商業デザインにおける地方色の表現についても、研究成果の一部として発表した。今後も引き続き、美術と商業デザインとを見渡した視点から研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、2020年度前半は東アジアにおける「地方色」伝播の実態を調査する予定だったが、感染症の影響により、海外での調査を延期し、2020年度の前半は専ら文献資料に基づく研究を進める。20世紀初頭は異国への観光旅行が世界的な規模で行われるようになった時期であるが、当時の土地のイメージを如実に示すポスター類には、美術の領域での新しい様式の開拓の影響が見て取れる。その図像的な特徴を整理しておきたい。ついで2020年度の後半から2021年度にかけては、可能であればアジア圏での土地表象の実地調査を行いつつ、日本国内での地方色の芸術上の表現について調査を行いたい。
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Causes of Carryover |
消耗品購入の際に端数が余ったが、次年度消耗品費に充てる予定である。
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