2021 Fiscal Year Research-status Report
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18K00152
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Research Institution | Kyoto University of the Arts |
Principal Investigator |
上村 博 京都芸術大学, 芸術学部, 教授 (20232796)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 地方色 / 民藝 / ネオ民藝 / 工芸 / 地域性 / 目利き / 職人 / アマチュア |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は日本各地の工芸・デザインの制作、また地域芸術祭での作品制作や展示において、それぞれ「地方色」がどのような意図のもとに、どのように実現されているのかを調査する作業を予定していた。しかし現地調査が実施できなくなったため、特にふたりの工芸にかかわる人物の活動を文献を中心に調査することとした。ひとりはネオ民藝を提唱する京都の陶芸家松井利夫氏であり、もうひとりは昭和初期の民藝運動の主導者柳宗悦である。柳については彼自身の著作と近年の豊富な先行研究を参考とし、松井氏については彼の活動報告書類を蒐集閲読するとともに、本人への直接の聞き取りも行った。松井氏が中心となって10年来続けている東北地方での工芸活動は、ネオ民藝の一種であるが、こどもを含む地域住民と、地元の作家、職人、そして京都、ロンドン、仙台といった都会から訪問した芸術家との三者により行われ、地域性を強く意識させる品物が制作される。しかし、そこにあらわれている地域性は、地域を象徴する何らかの記号的特徴によって示されるのではなく、地域内外の構成員による持続的な制作コミュニティによって自然に発生した個性である。他方で、柳宗悦の民藝でも同じように「地方色」の自然さが重視された。しかし民藝では審美的な眼をもつ作家や知識人と、彼らに発見され指導される素朴な地元職人という二項の構図があるのに対し、ネオ民藝ではそこに一般の消費者も製造プロセスに参入することで、「地方色」が概念的な規範的理念ではなく、さまざまな偶然性を経て事後に反省的に評価される特質となっていることがわかる。近代の芸術理論のなかで、規範的な地方色ではなく、自発的な地方色が追求されたことを鑑みると、柳の取り組んだ近代的な芸術上の課題を松井が引き継ぎ、独自の解決を試みたということができよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度は、前年度の感染症の情況が改善されることを期待して、当初は各地での芸術祭や工芸・デザイン活動を実地に調査する作業を予定していた。しかし、依然として感染症拡大防止のために研究出張が認められず、加えて感染症対策にともなう大学教務が激増し、大きく計画を変更せざるを得なかった。そのため、研究出張はほぼすべて2022年度以降に延期し、当面専ら近隣で入手できる材料をもとにした研究に注力した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度5月現在、ようやく感染症の影響が少なくなり、延期している調査も今後徐々に進められることが予想される。また、研究成果の一部を発表する予定だった国際学会がやはり感染症の蔓延のため今年度中止されたが、これも2023年度にあらためて開催されることが決まった。今年度で終了予定だった研究期間を延長して、遅れていた作業を取り戻すとともに、2023年度に成果を発表する予定である。
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Causes of Carryover |
感染症の影響により、研究計画が大幅に遅れたため、2021年度に予定していた作業の大半を2022年度以降に延期している。現在、既に所属機関の規制が徐々に解除されつつあり、研究調査寮費をはじめ、助成金の利用を段階的に進めていく計画である。
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