2022 Fiscal Year Research-status Report
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18K00152
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Research Institution | Kyoto University of the Arts |
Principal Investigator |
上村 博 京都芸術大学, 芸術学部, 教授 (20232796)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | サイトスペシフィック / 美術館 / 場所固有性 / コミュニティスペシフィック / コミュニティアート |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、「地方色」概念の受容にあたって、そのひとつの今日的な現れである「場所固有の芸術」(サイト・スペシフィック・アート)という概念と、それに関連する共同体での芸術活動の問題を中心に研究を進めた。 普遍的な美的規範に対して美的価値の個別性や相対性を重視する近代芸術にとっては、文化的中心に対して地方が、合理的精神に対して感性や身体性が強調される傾向にある。アカデミックな制度のなかで伝統的な美的規範が強く残る一方、地方的な題材や地方色の表現が重視されはじめたのはそのためである。そして「場所固有の」芸術という性格づけも、それに繋がっている。 1960年代末から徐々に広がってきた場所固有性の芸術は一見すると芸術上のモダニズムへの異議申し立てであり、美術館の展示作品に代表されるような制度的な芸術に対する批判的表明として位置づけられることが多かった。しかし実際のところ、場所固有の芸術という概念は、むしろきわめて近代的な芸術観に根ざしたものであり、美術館などの近代的制度と共に誕生したといってもよい。ルーヴルをはじめとする近代的美術館の草創期以来、繰り返し美術館という展示空間での芸術経験が批判されてきたが、それは他方で個人の親密な作品経験を理想的な環境において充実させたいという動機に基づいており、いわば美術館以上に近代的な芸術経験を徹底させているという側面がある。 20世紀後半の場所固有の芸術も、その意味では大きく近代的な芸術経験の範疇に収まってしまう。その一方で1990年代以降、共同体固有(コミュニティ・スペシフィック)の芸術ともいえるような参加型芸術や地元住民と芸術家のワークショップが多く行われるようになるが、しかしそこでは近代的な芸術経験が必ずしも意図されていないことにより、却って既成の地域アイデンティティや価値観の反復に陥っている情況も観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
感染症の流行やそれに伴う業務の激増によって、当初予定されていたものの実現できなかった調査旅行が多く、十分に計画が遂行できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の途中から徐々に調査を始めることができ、また各地域での芸術イヴェントも多く再開しつつある。2023年度はこれまでに得られた知見をもとに研究成果をとりまとめる予定である。ただし、当初の計画では2022年度に予定され、感染症のために2023年度に延期されていた国際学会での発表は勤務先業務のために再度延期の必要が生じた。そのため最終的に2024年6月の国際学会まで成果を持ち越すことを予定している。
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Causes of Carryover |
支出予定の大きな部分を占めていた研究調査旅費について、2023年度出張制限が解除されるのを待って使用する予定である。
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