2023 Fiscal Year Research-status Report
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18K00152
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Research Institution | Kyoto University of the Arts |
Principal Investigator |
上村 博 京都芸術大学, 大学院芸術研究科, 教授 (20232796)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地方色 / 真正さ / 場所固有性 / コミュニティアート / 共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は研究の最終的なとりまとめに向けて、実地調査および先行研究調査を踏まえ、特に地方色を巡る中心的概念である「真正さ」authenticity と「場所固有性」site-specificityとの関わりを考察した。 20世紀はじめまでの地方色は、芸術作品、商品、景観が土地に根ざすことによって、単なる人工物にはない真正さを手に入れるという信念が支えてきた。しかし、20世紀後半になって、芸術作品の概念が完結した自律的な作品ばかりではなく、パブリックアートやコミュニティアートなど、より受容者の参加が重視されるような形態も社会的関心を集めるようになると、地方独特の色合い、あるいは単なる異国趣味的な興味という意味での「地方色」以上に、「場所固有性」という性格が芸術活動において強調されるようになる。 研究代表者はさまざまなアートプロジェクトの実施者へのヒアリングを重ねるなかで、以下の2点を明らかにできたと考えている。ひとつには、かつての地方色が有していた真正さの含意が、場所固有性を標榜する作品や活動にも認められることである。地方色という語を使わないまでも、地域の歴史を参照させたり、住民との協働制作という形をとることによって、場所固有の芸術活動には依然として真正さへの希求が残っている。つぎに、そこから必然的に派生することではあるが、地方色を追求する作品が持っていた矛盾が場所固有の芸術にも存在していることである。すなわち真正さを求めながらも、土地に帰属するような真正さには既存の物語の再確認という、きわめて凡庸な現状肯定(そしてまた真正ならざる虚構性)は、場所固有の芸術(さらには共同体固有の芸術)になっても、避けがたい。芸術活動の「土地」や「共同体」からの一定の批判的距離こそが、かえって活動に質的な強度と存在意義をもたらすという点は再認識する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍による研究計画の遅れは甚だしいものがあった。とりわけ調査の一環として地域でのアートプロジェクトの訪問を予定したのが、軒並み中止になっていたのは想定外であった。しかし、2023年度にはほぼ各地のアートイヴェントも復活し、現在のところ、遅れはおおむね取り戻しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は最終的な研究成果のとりまとめを残すのみである。また、それに関連して、夏に国際学会での研究会開催を予定している。
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Causes of Carryover |
国際学会での研究成果発表を2023年度から2024年度に変更したため、2024年度に残金を使用する計画である。
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