2020 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代の俳諧文化における画家・絵画評価とその画壇への影響の研究
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18K00190
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
馬渕 美帆 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (60323557)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 江戸時代絵画 / 俳諧文化 / 画家評価 / 曾我蕭白 / 英一蝶 / 英一蜂 / 白隠慧鶴 / 尾形光琳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、次の二点である。 ① 江戸時代の俳諧文化において、どのような画家や絵画が高く評価されていたのかを、その理由と共に総合的に明らかにする。関係資料が多く、また既存の画家が体系的に把握されるようになった、18世紀以降の俳諧文化を研究対象とする。 ② ①で明らかにした俳諧文化の評価体系が、俳画などに限らず、広範な江戸時代絵画の制作に重要な影響を及ぼしている様相を、画家や作品に即して具体的に解明する。 新型コロナウイルス流行により刊行が遅れた論文集『日本美術のつくられ方』が12月に刊行された。分担執筆した申請者の論文「白隠慧鶴による英一蝶作品の受容」では、禅僧の白隠慧鶴が、18世紀半ばの江戸で、英一蝶の画を愛好する俳人達や一蝶の弟子の英一蜂等と交流し、一蝶画を自作に取り入れた状況を明らかにした。白隠や琳派等の研究者から、白隠や、江戸の俳人達に関わる琳派画家のネットワークを解明するものとして高い評価を得た。これは本研究の目的①②の一部を達成するものである。 また、18世紀前半の江戸の状況を考察すべく、論文「英一蝶と尾形光琳―一蝶晩年期の作風転換と光琳画意識―」を執筆した。一蝶が晩年期に古典的・貴族的なものへ作風転換したことにつき、江戸の大名家や富商という受容層において尾形光琳を含む他の絵師と競合する中で、戦略的に行ったことを指摘した。一蝶が光琳の存在や作品を意識していた可能性を初めて具体的に示すもので、二大画家同士の関わりを視野に入れることはこの時代の絵画観の刷新につながる重要な指摘である。同論文では一蝶の大作《涅槃図》の注文主が冬木家四代目であるという、一蝶及び冬木家研究にとり大きな発見もなし得た。 また、神戸市立博物館の展覧会「つなぐ」特別講演会「図様で「つながる」絵画」を行い、一蝶・一蜂の画が白隠や曾我蕭白に利用される例など、本研究の成果の一部を一般に向け発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の達成のために、主に上方及び江戸の事例の検証に重点を置いて研究を行ってきた。俳諧文化において高く評価されていたと見なせる画家の内、特に重要な英一蝶について、既に18世紀半ばの江戸における一蝶画の評価と、その白隠画への影響を明らかにしている。一蝶については、江戸に止まらず、上方においても評価・影響の事例を収集し得ており、それが具体的にどのような経緯によるのかを精査している所である。現在、上方の俳諧文化において重要な存在である与謝蕪村について、一蝶評価の観点から着目し、蕪村と江戸俳壇の深いつながりと関連させつつ検証を行っている。蕪村は若い頃に江戸で俳諧活動を行った後、京都・大坂で活躍した人物であり、江戸での一蝶評価を上方に移入した可能性が高い。これまで継続的に行ってきた、蕪村の高弟である呉春の調査・研究と併せて、彼らの俳諧関係の文学・絵画活動と画家・絵画評価を総合的に把握する作業を進めている。一方で、一蝶の画譜『画本図編』を大坂で出版した英一蜂の活動も、上方における一蝶評価・受容に重要な役割を果たしていたことが見通せており、同書の出版事情についても現在考察を進めている。蕪村周辺の活動と『画本図編』出版を二つの柱とし、一蝶の上方方面での評価・影響についてまとめる予定である。また、申請者が本研究以前に俳諧文化における評価と江戸時代絵画への影響を指摘した尾形光琳と、一蝶の具体的な関わりも示すことができ、「研究の目的」①達成のための重要な視点も得ることができている。新型コロナウイルス流行により図書館や所蔵先での資料収集・実地調査が予定していた通りには行いにくい状況であり、「研究の目的」①を令和2年度中に達成するには至っていないが、インターネット上の画像アーカイブなどで補い、ほぼ達成に近づいている。以上のことから、本研究の現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和3年度は、研究実施計画にのっとって研究を進め、本研究を完成する。令和3年度も、研究環境の一層の整備のため、俳諧及び日本美術関係の図書を購入する他、江戸時代の出版に関する図書も購入する。また、俳諧関係の資料や作品、俳諧文化における評価に関わる画家・絵画の資料や作品等について、国内の図書館や所蔵先での資料収集・実地調査を継続的に行う。そうした資料収集・実地調査を通じて、検討の対象となる事例をできるだけ多く集め、研究を完成させていく。令和2年度は東京方面や名古屋方面での資料収集・実地調査を多く行う予定であったが、新型コロナウイルス流行の影響で図書館や所蔵先での資料収集・実地調査が予定していた通りには行いにくい状況であり、これは令和3年5月現在まで続いている。資料収集と調査が行いにくい部分については、代替手段として、これまでもインターネット上の画像アーカイブなどを活用していたが、令和3年度も積極的に利用する。令和3年度は、これまでに集めた事例等を検証し、「研究の目的」①を達成した上、明らかにした俳諧文化の評価体系の影響を受けた江戸時代絵画について研究を進め、「研究の目的」②を達成する。 令和3年度においては、本研究の成果をまとめる作業も行い、国内の学会等での研究成果の発表や、学術論文としての発表を行う。それらと並行して、本研究の成果を書籍にまとめるための作業を進める。
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Remarks |
〔口頭発表〕馬渕美帆「図様で「つながる」絵画」神戸市立博物館展覧会「つなぐ TSUNAGU―THE POWER OF KOBE CITY MUSEUM」特別講演会(招待講演)2020年
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