2020 Fiscal Year Research-status Report
日本統治下の台湾における歌舞伎・浄瑠璃史の構築―現地資料に基づく基礎研究と考察―
Project/Area Number |
18K00234
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中尾 薫 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (30546247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日置 貴之 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 専任准教授 (70733327)
王 冬蘭 帝塚山大学, 経済経営学部, 客員研究員 (80319920)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 台湾 / 演劇 / 歌舞伎 / 浄瑠璃 / 義太夫 / 劇場 / 興行 / 植民地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本統治下台湾での歌舞伎・浄瑠璃の興行の実態を明らかにし、これまでほとんど言及されてこなかった植民地下での歌舞伎・浄瑠璃史を構築することである。具体的には『台湾日日新報』を主な手がかりとして、台湾で興行をした演者・演目・興行場所・興行主・興行期間等を明らかにし、日本(「内地」)でどのような活動をしていた役者なのか、日本における興行との連関はどのようにあるのかを分析することで、これまで言及されてこなかった植民地下での歌舞伎・浄瑠璃史の実態を明らかにしていこうとしている。2020年度より、同じ伝統演劇である能についても検討に加えつつある。2020度は、日置貴之が『台湾日日新報』に連載された「臺北役者評判記」で言及される役者の素性や日本での活動歴についての発表を2本行い、初期の劇場である十字館において旅芝居専用役者と思われる役者が出演し、のちに栄えた台北座・栄座では京都・名古屋で比較的大役を演じる様な役者が招聘されることが可能になるといった実態を明らかにした(日本演劇学会、民族藝術学会第159回例会での口頭発表)。王冬蘭は、台湾における能楽教授の実態を調査し、観世流、宝生流、喜多流の三流に限定され、それぞれの専業指導者の居住地によって、南部、中部は観世流、北部は喜多流の勢力が盛んであったことを明らかにした(民族藝術学会第159回例会)。研究協力者の川下俊文は、三代目竹本大隅太夫の台湾興行の背景には料理屋組合や台北花柳界の後援があったことを明らかにした(民族藝術学会第159回例会)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウィルス感染拡大防止対策の影響を受け、メンバー全員が予定していた台湾現地調査を断念した。各メンバーはオンライン授業への対応など想定外の業務が増え、本研究へのエフォートが著しく低いものとなった。また、たとえば、代表者の中尾薫が登壇予定であった国際会議が中止、分担者の日置貴之が発表予定だった日本演劇学会大会が中止になるなど、研究成果の発表が予定通りにすすませることができなかった。それでも分担者の日置貴之は、日本演劇学会秋の大会(2020年11月15日、オンライン開催)に振替発表が認められ、「「臺北役者評判記」と日本統治下台湾の歌舞伎の観客」を発表、メンバー全員で企画したシンポジウム「日本統治下台湾の能・歌舞伎・浄瑠璃興行をひもとく」を民族芸術学会第159回研究例会としてオンライン開催(2021年3月14日)することができた。各発表題目は以下の通り。中尾薫「趣旨説明:日本統治下台湾における演劇興行の研究と課題」王冬蘭「日本統治下台湾における能楽」川下俊文(研究協力者)「日本統治下台湾の浄瑠璃巡業と素人浄瑠璃」日置貴之「「臺北役者評判記」と日本統治下台湾の歌舞伎の観客」。またコメンテーターとして、岩井眞實氏(名城大学、演劇学)安達宏昭氏(東北大学、近現代史)をお招きして、今後の研究の方向性について研究助言をいただいた。
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Strategy for Future Research Activity |
本来は2020年度が最終年度だったが、2021年度に延長が認められた。2020年度、研究の視点を、日本統治下台湾における歌舞伎・浄瑠璃興行と、日本の演劇興行とが、いかに交流しているのかを明らかにする点に定めた。研究協力者を含めたメンバーの研究調査によって、そのつながりを知る糸口が少しずつ見えてきているので、引き続き国内でできる調査を進め、それぞれの研究分担について研究の精度を上げていく。日置貴之は「臺北役者評判記」の翻刻発表のための準備をしており、2021年度中の発表を目指す。王冬蘭は鷺流狂言の台湾伝承、台湾における「鷺流狂言師」と言われた永久春水と山口市にいた春日庄作の門弟である永久竜三郎、永久栄次郎と関係があるかどうか、台湾の鷺流狂言と日本国内の関連等について探究する。2021年度も台湾での現地調査は難しい見込みであり、主軸となる研究資料である『台湾日日新報』から追加事例を抽出することは、ほぼできないと思われる。そのため、これまでに資料収集が充分ではないが、調査対象とすべき台北以外の事例、太平洋戦争中の台湾における皇民化政策、台北花柳界と台湾演劇興行との関係、女義太夫の台湾での活動、九州・大阪・名古屋・京都の興行との関連などについて、数回の研究会を開催し、これまでに関連研究を発表している研究者に登壇していただき、問題点の共有や今後の展開についての助言をしてもらう計画である。オンラインで実施するため、在海外の研究者にも依頼可能になる。研究会で交流した研究者との協力体制を築き、より充実した研究に発展させるべく、2022度以降も研究を継続できるよう継続申請を目指し、最終的な成果に近づけるための新体制を調える一年とする。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、台湾での調査を断念したため、旅費がほとんど生じなかった。2021年度は、オンライン研究会を数回企画し、これまでに資料収集が充分ではないが、調査対象とすべき台北以外の事例(太平洋戦争中の台湾における皇民化政策、台北花柳界と台湾演劇興行との関係、女義太夫の台湾での活動、九州・大阪・名古屋・京都の興行との関連)などについて、れまでに関連研究を発表している研究者に登壇していただき、問題点の共有や今後の展開についての助言をしてもらう。また、どうしても必要な現地資料の収集については、台湾在住者の協力を得ることも考える。その謝金や運営費に充当する計画である。
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Research Products
(6 results)