2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K00260
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
三村 太郎 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (50782132)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イブン・ハイサム / プトレマイオス / ハイアの学 / イスラーム天文学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イブン・ハイサムの天文学者としての活動の全容を解明し、そのプトレマイオス観の変遷を探ることを主眼とする。そのためには、まず彼が『アルマゲスト』をどのように読んでいたのかを知る必要がある。幸いなことに、彼は『アルマゲスト』に対する注釈書を残しており、本注釈書は今日知られている限りでトルコ・イスタンブールのトプカプ宮殿アフメト三世写本3329の一写本のみで伝わっている。本注釈書は、100フォリオ以上にもおよぶ大部な作品で、イブン・ハイサムのプトレマイオス理解に関する豊富な情報を与えてくれる。本研究では、まず、本注釈書の本文校訂と英訳の完成に取り組む。また、Ragep教授も本注釈書の内容に強い関心を持っているため、共同での本注釈書の講読と内容分析を行う。他方で、イブン・ハイサムの『アルマゲスト』理解を精密に分析するには、『アルマゲスト』がどのようにアラビア語に翻訳されたのかを知り、いかなるアラビア語訳版を彼が用いたのかを把握しなければならない。近年、ドイツ・ミュンヘンにおいてPtolemaeus Arabus et Latinusと題したプトレマイオス天文学書のアラビア語訳とラテン語訳に関する写本の体系的な収集と分析を目指す25か年計画の巨大プロジェクトが進行している。そこで、本研究を遂行するためにも、その研究プロジェクト拠点に短期滞在し、プロジェクトに参加している研究者たちと意見交換をすることで、イブン・ハイサムの使用したアラビア語版『アルマゲスト』の特徴を見極め、彼の『アルマゲスト』理解を正確に分析する基盤を得る。本研究は、三年で遂行することを予定している。一年目はイブン・ハイサム『アルマゲスト』注釈のアラビア語本文の全容を解明を目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目はイブン・ハイサム『アルマゲスト』注釈のアラビア語本文の全容を解明することに集中した。その結果、アラビア語本文のおおよそ全体の転写を完成させた。加えて、8月と9月にドイツ・ミュンヘンに拠点を置くPtolemaeus Arabus et Latinusと題したプトレマイオス天文学書のアラビア語訳とラテン語訳に関する写本の体系的な収集と分析を目指す25か年計画の巨大プロジェクトに短期フェローとして滞在し、プロジェクトに参加している研究者たちと意見交換をすることで、イブン・ハイサムの使用したアラビア語版『アルマゲスト』の特徴を見極め、彼の『アルマゲスト』理解を正確に分析する基盤を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、一年目で完成させた注釈書アラビア語全文を精密に校訂、英訳するのに並行して、イブン・ハイサムによるその他の天文学書群をできるかぎり収集したい。さらに、収集した彼の天文学書群の内容を分析し、注釈書でのプトレマイオス観とそれ以外の著作でのプトレマイオス観とを比較することで、彼のプトレマイオス観の変遷をたどり、本研究課題の問いである「イブン・ハイサムのプトレマイオス観はなぜ劇的に変化したのか」の解明を行う。
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Causes of Carryover |
1月に招聘予定だったロンドン大学Charles Burnett教授が都合により来日不可能になったため、招聘用に使用予定だった予算分が消化できなかったため。本年度に再度招聘し、昨年度に消化できなかった予算分を消化する予定である。
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