2018 Fiscal Year Research-status Report
園城寺所蔵天台関係聖教の調査による中世天台談義書を生成するネットワークの解明
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18K00274
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
渡辺 麻里子 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (30431430)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 園城寺 / 三井寺 / 尊契 / 尊実 / 身延山久遠寺 / 真祐 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の2018年度は、園城寺の聖教調査を合計3回実施し、園城寺が所蔵する天台聖教(主に勧学院蔵本)についての調査及び撮影を行った。園城寺では、特に『三大部見聞』を中心に調査を進めたが、①妙法院門跡蔵本と形式や内容が近似していることが判明し、延暦寺山内における書写体制が想定されること、②書写者の署名が記されているものがあり、延暦寺内の書写体制を考える手掛かりと考えられること、③聖護院道寛の印や聖護院の蔵書印が見つかり、聖護院における聖教のあり方を考える手掛かりとなること、などの知見が得られた。 その他、中世に身延山久遠寺の学僧が園城寺の談義を聴講したために、園城寺の談義資料が残る身延山久遠寺において、聖教調査を実施した。身延山久遠寺においては、園城寺尊契や尊実の談義資料が数点見つかり、それらについての調査および撮影を行った。さらに、同じく天台宗の門跡寺院である妙法院門跡所蔵の聖教調査を行った。また、真言宗の門跡寺院における聖教調査にも参加した。 上記の寺院所蔵の聖教調査の他、早稲田大学図書館や東京大学附属図書館において資料収集を行い、調査研究を進めた。 また、説話文学会(大会・例会)や日本仏教綜合研究学会などの学会に参加し、新たな知見を得ることができた。 これらの調査や研究によって、中世における園城寺の談義について多くのことが判明した。その成果は、天台宗教学大会((於)叡山学院)において発表した。学会における発表内容は、今後、論文として改めて刊行する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
園城寺の聖教調査は、当初の計画以上に進展があった。法華三大部の注釈である『尊談』ならびに『三大部見聞』の調査を予定していたが、新出の真祐『法華文義集』が見つかり、本書の調査も行った。また『三大部見聞』についても、妙法院門跡蔵本と共通する形式であることが確認できた。また妙法院本では筆跡から複数人での書写であることしか判明せず、書写者名は全く不明であったが、園城寺本では、部分的ではあるが書写者が判明するなどいった貴重な発見があり、予定以上の研究の進展があった。なおこれらの点は、改めて妙法院門跡蔵本を調査することにより確かめることができた。 また身延山久遠寺においては、園城寺における談義を書写した本を調査することができ、それによって園城寺における談義についての多くの情報を得ることができた。また当初予測していたもの以上に、園城寺関係本の点数があることが判明し、次年度に引き続き調査を実施することとした。関連して、当初予定していなかった真言宗における門跡寺院の調査に参画することができ、天台宗の門跡寺院における聖教を、相対化し、検討する視点を得ることができたのも、想定外の貴重な研究の進展であった。 早稲田大学図書館や東京大学附属図書館における調査では、特に園城寺本についての先行研究を探索し、様々な論考を確認することができた。一年目に研究の基礎固めを行うことができたので、二年目以降は、より進展させていくことが可能となった。 初年度の研究成果は、天台宗教学大会などでの学会発表を行い、会場からのご教示を得て、研究をさらに深めることができた。学会発表の成果は、今後論文として成稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
園城寺所蔵の天台聖教は、予定していた書目の他にも所在していることが判明したため、今後は、何より園城寺の聖教調査を強化して行う。可能な限り、回数または日数を増やして、点数を多く調査を進める予定である。大部の『三大部見聞』については、未撮影の部分を早めに終わらせるように努力する。調査の終わっていない身延山久遠寺は、身延山久遠寺所蔵園城寺関係聖教の調査を引き続き行う。調査の方法は、今年度に引き続き、調査と撮影を並行して行っていく。聖教の内容が比較対照できる寺院については、例えば真言宗の門跡寺院についても、調査が可能な門跡寺院は引き続き調査を行い、比較検討することによって、園城寺が所蔵する天台聖教の特徴を具体的に明らかにしていきたい。 また、園城寺や身延山久遠寺で調査中の聖教について、その伝本を所蔵する叡山文庫での調査を実施し、内容の検討を深めていきたい。初年度は、叡山文庫での調査を行わなかったので、二年目は、叡山文庫の聖教も用いつつ、分析を進めていきたい。 寺院資料調査の報告を行う学会には出席し、新しい知見や最先端の情報を得るようにする。自分も調査研究による新しい成果については学会で発表披露し、会場からのご教示や批正を受けつつ研究を深めて行くよう考えている。学会発表や論文化に際しては、引き続き、早稲田大学図書館など、蔵書の多い図書館へ行き、資料収集や調査研究を行う。初年度に学会発表した内容については、公刊できるように成稿を進めている。
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Causes of Carryover |
年度末の3月に行った東京での資料調査が、予定より早く進んだために、日程を短縮した。そのために予定よりも支出金額が少なくなった。調査旅費など次年度の研究費として有効に使用したい。
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Research Products
(1 results)