2021 Fiscal Year Research-status Report
園城寺所蔵天台関係聖教の調査による中世天台談義書を生成するネットワークの解明
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18K00274
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
渡辺 麻里子 大正大学, 文学部, 教授 (30431430)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 園城寺 / 三井寺 / 三大部見聞述聞 / 廬談 / 真祐 / 亮憲 / 身延 / 談義 |
Outline of Annual Research Achievements |
園城寺所蔵聖教調査を実施し、①聖護院道寛所持本の『三大部見聞述聞(三大部廬談)』、②園城寺における中世の談義、③中世末から近世初頭にかけて、闕所で途絶えた園城寺の教学を復興した真祐・亮憲の教学などの解明に努めた。 ①『三大部見聞述聞(三大部廬談)』については、聖護院道寛の旧蔵本である園城寺本を調査整理し分析した。 『三大部見聞述聞』は全体構成が不明瞭で、近世期からその構成が問題となっていた。「三大部見聞(玄義見聞・文句見聞・止観見聞)」と「三大部述聞(玄義述聞・文句述聞・止観見聞)」の区分が一定ではなく、さらに例えば「止観見聞第一」六冊は六冊中の順にも相違があり、『三大部見聞述聞(三大部廬談)』は、廬山寺の談義の他にも、古来から「奥談」や「猪熊談」など、他師の談義が混入する混乱があった。本研究では、園城寺本『三大部見聞述聞(三大部廬談)』(全133冊)について全体を調査整理した。また叡山文庫別当代蔵本、毘沙門堂蔵本、真如蔵本などの伝本調査を実施し、比較検討から詳細な分析を行い、園城寺本の特徴を明らかにした。 ②園城寺における中世の談義については、園城寺所蔵聖教調査に加えて、中世に園城寺で学んだ学僧が持ち帰った聖教を所蔵する身延山久遠寺身延文庫の関連書目調査を行い、園城寺における談義の実態を分析した。③の真祐・亮憲の教学については、園城寺諸院の蔵書調査によって、真祐・亮憲関係書目を新たに見出し、様々な知見を得た。 研究成果については、その一部を2021年11月に開催された天台宗教学大会((於)叡山学院)にて発表した。さらに詳しくは報告書を刊行して公開することにしている。報告書の刊行は、当初、2022年3月を予定していたが、コロナ感染拡大の社会状況により、閲覧調査と撮影の実施が計画通りに進められなかったため、2022年度に延期した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した内容は、園城寺所蔵聖教に関する調査を実施し、①『三大部見聞述聞(三大部廬談)』の解明、②中世における園城寺の談義の実態解明、③中世~近世にかけて闕所で途絶えた園城寺の教学を復興した真祐・亮憲の教学解明であった。2021年度の前半はコロナ感染拡大の社会状況の影響によって、調査回数を減らさざるを得なくなったが、夏以降は、予定通りの調査を実施できたため、全体としては、おおむね順調の進展と考えている。 ①の『三大部見聞述聞(三大部廬談)』については、園城寺蔵本についての整理分析は終えることができ、さらに毘沙門堂蔵本、真如蔵本などの諸伝本閲覧調査に加えて、別当代蔵本の調査を実施することができた。当初予想していた以上の成果もあり、園城寺蔵『三大部見聞述聞』については目的を達成し、それ以上の成果を上げた。 ②の園城寺の中世における学問についての分析は、園城寺聖教調査に加えて、中世の園城寺の談義資料を所蔵する身延山久遠寺身延文庫の調査を実施することができた。身延文庫は、現在の園城寺には失われている談義資料などを有しており、貴重な知見を得ることができた。③の真祐・亮憲の教学については、真祐・亮憲関係書目についての園城寺の諸院の蔵書調査から新出資料が数多く見つかり、大いに成果をあげることができた。 研究成果は、2021年11月に開催された天台宗教学大会((於)叡山学院)にて発表した。詳しい成果報告として報告書を刊行する予定であったが、報告書刊行のために必要な確認調査が十分に実施できず、当初、2022年3月刊行を予定していたものを、2022年度中の刊行に延期変更した。2021年度の前半の調査が後半にずれ込んだという点と、それによって報告書の刊行が遅れた点はマイナスであるが、今期の調査によって当初計画以上の成果があったことを勘案して、「おおむね順調に進展」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き園城寺所蔵聖教調査を実施し、園城寺における中世の学問を解明するように努める。聖教調査は、撮影も並行して行い、目録作成など、詳細な分析のための基礎的作業を進める。 ①『三大部見聞述聞(三大部廬談)』については、まずは報告書を刊行して基礎的情報を公開する。可能であれば西教寺本の調査を進め、伝本比較をより詳細に行う。②園城寺の中世における談義の実態解明については、園城寺の中世における談義資料を有する身延山久遠寺身延文庫の調査を引き続き実施する。また叡山文庫等において、園城寺関係資料の調査を進める。③真祐・亮憲の教学については、叡山文庫の他、亮憲が住した東叡山千妙寺資料等の調査も進める。 今後は、今期の方針を継続しながら園城寺所蔵聖教の調査を実施しつつ、新たなことにも取り組む。本科研では、上記の観点から園城寺所蔵聖教の調査研究を進めてきたが、園城寺所蔵聖教は膨大で、多種多様であるため、まだ全体像を把握できる状態にはいたっていない。多種多様な園城寺聖教について、まずは全体像を俯瞰できるよう目録を作成するなど、基礎的研究を確実に行う必要がある。また同時に、園城寺聖教の分析のため、叡山文庫や身延山久遠寺身延文庫など、園城寺関連聖教を多く有する文庫の調査も継続実施し、内外からの総合的分析に努める。 さらに近年、園城寺諸院のうち法明院の資料が発見されたことから、法明院蔵聖教の調査も進めて行く予定である(科研課題番号、22K00299、令和4年~7年)。法明院聖教は、中世関係資料も多く有しているものと見込まれる。法明院聖教を調査・分析することによって、園城寺の中世における学問について新たな知見を得、実態の解明に努めたいと考えている。 また成果報告としては、学会発表や論文発表を重ね、報告書などの刊行によって、この成果を広く学界で共有できるようにしていくことを計画している。
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Causes of Carryover |
報告書の刊行を2022年3月に予定し、それに必要な補助調査を計画していたが、コロナ感染拡大の社会状況により、計画通りの調査を実施することができなかった。そこで、報告書の刊行とそれに伴う調査を次年度に延期した。
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Research Products
(1 results)