2020 Fiscal Year Research-status Report
〈大衆文学〉の新人文学賞に関する総合研究―「『サンデー毎日』大衆文芸」を軸として
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18K00276
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
和泉 司 豊橋技術科学大学, 総合教育院, 准教授 (50611943)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | サンデー毎日 / 大衆文芸 / 新人賞 / 直木賞 / 長崎謙二郎 / 田村さえ / 笠置山勝一 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本手最初期に刊行された週刊誌である『サンデー毎日』における大衆文芸テクスト、及び大衆文系についての新人賞である『サンデー毎日』大衆文芸募集に関して、昭和初期から戦後にかけての時期の当選作家や関連する作家や作家の活動した同人誌などについての調査を続けている。 2020年度は、前年に引き続き1940年に『サンデー毎日』大衆文芸募集に当選した長崎謙二郎と田村さえに関する調査、及び、1949年に同募集に当選した笠置勝一に関する調査を中心に行った。 長崎謙二郎と田村さえについては、まず長崎が『サンデー毎日』に当選する以前の状況を精査することを目指した。長崎は1927年以前、大阪、東京、広島で活動弁士として活動しており、大変人気を得ていた。活動弁士として最後の時期にすごした広島での出来事を、1933年に「赤い風」として私小説にまとめ、第7回『改造』懸賞創作に投稿、選外佳作となっている。このテクストは1934年12月『法政文学』に「地方の嵐」と改題されて発表された。この中で、長崎は1920年代後半の広島における文学運動の様子を詳細に記しており、その資料的意味と同テクストの文学史的意義、そして、このような私小説の発表が後に大衆文学を書き始める長崎謙二郎にどのような影響を与えたかの検討をする予定である。 もう一点、笠置勝一は、「笠置山」の四股名で活躍した力士で、力士と並行して、1940年代に断続的に小説を発表しており「インテリ力士」と呼ばれていた。戦後まもなく力士を引退し、積極的な執筆活動を行っていたが、その一つが1949年の『サンデー毎日』大衆文芸募集に当選した「愛の渡込み」に代表される小説の発表である。プロの力士であった笠置山勝一にとって、小説執筆はどのような意味があり、どのような評価を受けていたのか。そしてそのために『サンデー毎日』が果たした役割は何か。この点について精査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウィルスの蔓延により、出張はもちろん、外出そのものが厳しく制限された。そのため、研究に必要な資料の調査が全く行うことができなかった。各地の図書館・資料館が遠隔複写サービスを充実させてくれたおかげで、最低限の資料を取り寄せることはできたが、資料の掲載年代、掲載号がわかるものしか依頼することができないので、内容確認も主にはできなかった。予定していた海外出張(アメリカ)ももちろん不可能であったので、『サンデー毎日』を主軸として行う予定の戦前・戦後期の大衆文芸に関する動向を巨視的に把握する試みの実行ができなかった。2021年度はじめの現時点(21年5月)段階でも出張調査ができる見通しはついていないため、方針をある程度転換し、個々のテクストを中心とした調査・研究にシフトする必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況に書いた内容とも重複するが、資料調査に出かけることが現時点で難しいため、個別のテクストの分析研究にしばらくシフトする必要があると考えている。具体的には、『サンデー毎日』大衆文芸募集に当選した作家の中から特徴的な作家をピックアップし、その動向を分析することで、『サンデー毎日』が大衆文芸の発展に果たした役割を浮かび上がらせることはできないか、確認していく。先に挙げた長崎謙二郎、田村さえ、笠置山勝一をはじめ、経済小説の先鞭をつけた沙羅双樹、初期に当選していた井上靖について、及び、注目されることが比較的少ない戦後終盤期の当選者たちについての資料収集と書誌・作家情報の整理と公開を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
2019年度、2020年度に海外調査(アメリカ)を実施できなかったことが非常に大きい。特に2020年度は新型コロナウィルス蔓延によって外出もままならない状況となり、各地図書館・資料館への出入りもできなかった。今年度も前半は同様の状況が予想されるため、希望する調査・研究活動ができるかどうか判断が難しい状況にある。可能な限りの調査と、現時点で可能な報告・発表などの成果公開を目指している。
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