2018 Fiscal Year Research-status Report
柳田国男の表現構造がもつ現代的意義の発掘―言語観・文章構成・同時代状況への関与―
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18K00285
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
宮崎 靖士 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (10438351)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 柳田国男 / 表現 / 言語観 / 文章構成 / 同時代状況 / 現代的意義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の主たる検討対象は、柳田国男の「言語観」に関する要点理解であり、特に柳田における表現の定型に関するスタンスと、「考える言葉」をめぐる認識に重点をおき、本研究の検討を行った。と同時に、当初の予定を前倒しして、柳田国男における表現構造の背景となる諸資料に関する調査にも着手した。 まず上記の「言語観」のうち、表現の定型に関するスタンスについては、それを重視することが柳田において必ずしも最重要な事柄ではなく、より重要なのは定型表現を通過点として、個々の言語使用者に独自な自由意志の発露を可能とさせる点であることが解明できた。また、「言語観」のうち「考える言葉」に関しては、柳田のテキストにおける類似表現を含めた用例を確認するとともに、その主張と関連し得る教育学、言語学、発達心理学における「内言」(=心の中の言葉)の研究動向、及び現代において「内言」の再構築を失語症治療の臨床実践において重視する「全体構造法」等についての基本文献を通覧し、それらの間の接点を探った。 また柳田国男における表現構造の背景となる諸資料に関する調査については、成城大学が所蔵する柳田国男旧蔵の「諸国叢書」の調査と、協同組合図書資料センター収蔵の柳田旧蔵の近世期写本と農政学関連洋書の検証を行った。これらの資料に認められる書き込み等の読書傾向を確認することを通じて、柳田の論説がもつ表現傾向や構成の由縁の一端を理解することができた。 以上の検討成果は、2019年度以降の作業の基盤となるものであり、19年度にかけても発展的な検討を続ける予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の自己評価をした理由は、提出済みの研究計画調書に記載した研究開始年度の研究計画を、ほぼその通りに実行できたからである。その中でも特に、上記の柳田における表現の定型に関するスタンスについては、それが最終的な目的ではなく、より大きな目的のための手段として位置づけられることを明らかにすることができ、予想以上の成果を得ることができた。 また、上記の蔵書調査を2018年度から実施した理由は、次の2点である。第1には、早期にこの検討に着手することにより、本研究全体に関わる視野を十全な形で得ることができると考えたためである。そして第2には、協同組合図書資料センターが2018年度末で閉鎖することがわかったためである。そのような理由から早期に着手した蔵書調査においても、予想以上の成果を得ることができた。 以上を総合して、上記の自己評価に至った次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度においては、検討の比重を柳田国男のテキストにおける表現構造の特質解明に移行し、柳田における言語観と実際のテキストにおける構成・文体等との関連、及びその背景をなす読書経験(旧蔵書等に認められる表現傾向)との関わりに関する検討を中心的に行う。 第1には、章、節もしくは文中の見出しという形をとる、論説中での分節のしかたに注目する。ここではまず、明治後期の『遠野物語』等に認められる分節の傾向と、自然主義小説における構成方法(章立て)との対照を論説と小説の違いという点にも配慮しつつ行う。そこから、自然主義小説における、全ての出来事が終わった時点から俯瞰的に整理し章立てを行うという発想とは異質な柳田の傾向までを明らかにしたい。 そして第2には、章、節の中に目を向け、そこにおける主題と考えられる文や情報がどのように定位されているかを検討する。具体的には、話題の選択、配列や文体、及び細部にわたるレトリック、文章のリズムまでを視野に入れ、その傾向についての類型化までを目指す。なお、検討対象としては、『遠野物語』等の明治後期のテキストに加え、更に、大正期、昭和初年代、昭和10年代のテキストからそれぞれ何点かを取り上げ、そこにおける特徴を確認することで、検討結果の妥当性と一般性を確保していく予定である。 そしてそのような作業の基盤となるのが、18年度より着手している、柳田の旧蔵書等に認められる表現傾向の調査である。上記の検討成果を総合的に活用することで、研究最終年度となる2020年度における検討の始発点を確実なものとする。
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