2019 Fiscal Year Research-status Report
Studies on Writers' International Interactions and Representations of Asia on the Basis of Sato Haruo's Previously possessed Materials
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18K00289
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
河野 龍也 実践女子大学, 文学部, 教授 (20511827)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近代文学 / 国文学 / 植民地 / 草稿研究 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度中は、2020年4月より11月まで、台南の台湾文学館で開催が決定した特別展示「百年の旅びと:佐藤春夫1920台湾旅行文学展」に向けた資料整理と交渉を中心に行った。主催は台湾文学館、協力団体として佐藤春夫記念会と実践女子大学が名を連ねている。この展示では、研究代表者が日本側企画者を務めている。 8月に台湾文学館から蘇碩斌館長、邱若山教授(靜宜大學)、張文薫副教授(臺灣大學)の一行を迎え、新宮市立佐藤春夫記念館において、展示概要の打ち合わせと展示品の選定を行った。また、新宮市長を表敬訪問し、記者会見を行った。その際の話し合いに基づき、実践女子大学で調査中の佐藤春夫旧蔵資料から、1920年の台湾旅行に関する資料発掘に努めた。 研究上の重要事項として、著作計画の目次2種の発見がある。福建旅行は1922年に『南方紀行』として出版、台湾旅行は1936年に『霧社』として出版されたが、旅行直後は1冊の本にまとめる計画だったことが分かる。また、「蝗の大旅行」「集美学校」の草稿の一部が発見されたことも大きい。特に「集美学校」の記述は、福建省で春夫が遭遇した「排日」の実態を、発表作とは違う形で記録している。その他、「星」の典拠となった民間演劇の謡本(歌仔冊)や、森丑之助から贈られた「蜻蛉玉」(台湾原住民の装飾品)などの実物資料、および関係者遺族より託された写真類などの新資料を台湾文学館の展示に提供した。 上記のほか、2つの展示会に協力した。「太宰治と船橋」(船橋市西図書館・6月14日~7月10日)では講演(6月29日)を、「辻音楽師の美学」(三鷹市美術ギャラリー・9月21日~10月20日)ではパネル執筆を行い、本研究の成果を活用した。また、本研究に基づく単著『佐藤春夫と大正日本の感性』が、2020年3月に第28回「やまなし文学賞(研究・評論部門)」を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の柱は、A:佐藤春夫遺品資料の分析と、B:台湾・福建紀行文の登場人物の子孫に対する訪問調査の2つである。 2019年度は、来年度の台湾における記念展に備えて、台湾旅行に関係する資料の発掘と意味づけを行った。資料の新発見を含めて研究に進展があり、これをもとにパネルと展示品解説の執筆を進めた。 また、8月には福建省厦門に出張し、春夫が滞在した建物の特定調査を行うことができた。悪天候の影響で、現地で計画していた関係者への聞き取り調査ができなかった点は残念である。 本研究の成果として、佐藤春夫における漢学受容の実態を明らかにする論文を執筆した。英訳・ドイツ語訳を介する白話小説翻訳の試みは、漢学を西洋文学と同列の外国文学と見なしていた春夫の姿勢を物語るものであり、大正世代のアジア観の一端を示す実例と言える。この指摘を、台湾文学館の展示にも活かすことができた。 以上のように、今年度は展覧会への協力や講演など、研究成果を社会に直接還元する活動が中心になった。この点は計画段階からの想定に沿っている。資料に関しても新発見があり、公開の準備もできた。そのため、研究の進度はおおむね順調と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
台湾文学館における展示は、新型コロナウイルスの流行拡大にともなう渡航規制の直前に展示品の輸送を完了させ、4月3日から予定通り開催に漕ぎつけることができた。しかし、展示に関連する行事は防疫の観点からすべてキャンセルになった。様々な機会に台湾での意見交換と研究交流に努める予定であったが、2020年度の計画はすでに大幅な変更を余儀なくされている。 ただ、幸いなことに展覧会の図録出版の計画は順調である。これは台湾における初の春夫案内書兼研究論文集の意味を持ち、台湾文学館も力を入れている。佐藤春夫を通じて国際的な研究交流を進めるにあたり、この本の出版には大きな期待が寄せられている。 これとは別に、台湾・福建紀行に関する研究成果の出版も計画している。日本国内では、関係者への取材も徐々に進める予定である。渡航規制が解除され十分安全が確認できれば、台湾・厦門における聞き取り調査も再開できるよう準備を進めている。
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Research Products
(2 results)