2018 Fiscal Year Research-status Report
近世仏教説話集の知的基盤についての研究-寺院所蔵の出版物及び聖教との関わりから-
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18K00293
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山崎 淳 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20467517)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 寺院文献調査 / 蓮体 / 真言寺院 / 近世説話集 / 出版 / 聖教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の具体的対象は、説話集編者として著名な真言僧・蓮体(1663~1726)である。彼が説話集編纂に際し、どのような知的環境の中にいたのかを明らかにするために、彼と関わりがあった寺院の所蔵文献の悉皆調査を軸に研究を進めている。 寺院の経蔵の内容全てを対象とする悉皆調査の形を取るのは、説話集編纂当時の蔵書と現在の蔵書では、内容や構成が必ずしも同じでないと考えられるためである。現在の蔵書を短絡的に説話集等の作品に結びつけることは慎まなければならない。現時点での全体像を把握した上で、蔵書の伝来を含む時代的変遷を解明する必要がある。その作業を経ることで、説話集の成立基盤として寺院所蔵文献を考えることが可能となる。 当該年度で調査を進めた寺院は、地蔵寺(大阪府河内長野市)と覚城院(香川県三豊市)である。前者は蓮体が晩年を過ごした寺院である。報告者によるこれまでの調査・研究(版本を中心とする)から、蓮体に直接関係する資料が大量に蔵されていることが判明していた。後者は前年度までの下調査(中山一麿の科学研究費助成事業と連携)により、間接的なものだが蓮体やその師の浄厳に関係する資料の存在が確認できていた。 当該年度においては、地蔵寺ではこれまで悉皆調査を進めてきた版本群に加え、前年度に新たに見出された写本を中心とする聖教類の調査に着手した。覚城院では逆にそれまでの写本中心の悉皆調査に加え、版本群の調査を本格化させた。 上記の調査により、地蔵寺では蓮体の自筆資料や同寺の蔵書形成に関わる資料が新たに見出された。また覚城院でも蓮体自筆と目される資料(少なくとも蓮体所持本)の存在を確認した。しかも、これらの資料が両寺院の蔵書に関する知見を相補する貴重なものであることも判明した。本研究は、近世説話集研究、蓮体研究を進展させるのみならず、寺院経蔵のネットワークを考える新たな材料を提供し得るものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査を進めているのは、地蔵寺と覚城院の二寺院である。 地蔵寺においては、前年度までと同様に版本群の調査を継続し、その結果、現時点で約9割強を調査し得た。また、初期の調査で抜け落ちていた項目などを補う作業(資料の再確認)も同時並行的に行い、より充実したデータの蓄積が進んでいる。さらに、前年度に新たに見出された聖教類(写本中心。点数未詳)の調査に着手した。この聖教類に関しては未整理のものが多いので、調書作成・撮影を可能な状態にするための塵芥の除去、虫害により粘着した丁を剥がすなどの作業を下準備として行っている。 覚城院における版本群調査は、他の研究者と合同で作業を進め、現時点で20函分の資料について簡便な形の仮目録を作成した。これは本格的な書誌調査と正式な目録の作成を前提とした作業である。また、この作業で得られた情報と、写本調査における情報を照合することにより、個々の資料の分析や蔵書の構成についての知見に進展が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
概要並びに進捗状況で記した二つの寺院の悉皆調査を継続して進める。地蔵寺おいては新出の聖教(写本)類の調査(進捗状況で触れた下準備並びにおおまかな規模の把握)が軸となる。覚城院においては引き続き版本群を調査していく。時間的制約もあるが、可能な限り1点1点の精査にも努める。 調査においては、調書の作成はもちろん、資料の撮影を積極的に進める予定である。別々の場所に蔵されているモノとしての資料(現物)を並べることが難しい以上、画像による照合は必要不可欠な作業となる。 これらの作業の目標の一つとして目録、及びまとまった研究成果の公刊がある。どのような形式で掲出するかなども含め、連携している科学研究費助成事業の関係者との議論を進めていく。 上記二寺院以外の寺院の調査も進めていく予定である。蓮体・浄厳に関わりのあった寺院、彼等の広めた新安祥寺流(真言仏教の一流派)の資料を遺す寺院は数多いと予測される。それらの所蔵文献も視野に入れていくことで、近世における真言宗寺院の多角的なネットワークがより明らかになることが期待できる。
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Causes of Carryover |
報告者は次年度に所属機関を日本大学から武庫川女子大学に変更することとなった。その準備のため、特に当該年度後半は調査の回数を減らすこととなった。また、購入予定の機材(デジタルカメラなど)についても、所属機関変更(引っ越し)に際する不測の事態をできるだけ防ぐため、緊急に買い換えが必要であったノートパソコン以外は次年度購入に回した。したがって、次年度は早急に機材を購入するとともに、調査日数を当初計画予定よりも増やす計画である。
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