2018 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本の空間フレームと非識字読者をめぐる文化翻訳の抗争に関する研究
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18K00294
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高 榮蘭 日本大学, 文理学部, 教授 (30579107)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 図書館 / 非識字読者 / 出版 / 植民地朝鮮 / 空間フレーム / 翻訳 / 移動 / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、帝国日本の空間フレーム(図書館・古/書店・露店など)を参照軸としながら、①非識字読者の獲得を欲望する合法/非合法出版市場の担い手たちの間で繰り広げられた、新たな文化の編成をめぐる抗争と交錯、②それをめぐる記憶が、1945年以後の旧内地、旧外地において、冷戦構図を媒介に、如何に「翻訳」され、歴史化されたのかを明らかにすることを目的とする。 日本からの情報の入口であった仁川や京城における帝国日本の空間フレームについて調査を進めた。その一環として、1930年代仁川の空間模様を詳細に記録した『モダン仁川』の著者である戸田郁子さんの講演会(8月15日、仁川文化財団生活文化センター)を企画した。新たな文化の創出の仕組みについて考えるために、ワシントン大学のE・Mack氏、UCLAの平野克弥氏と共に、Fifth annual Transpacific Workshop“Play”を企画(6月9日、ワシントン大学)した。書物の移動や非/識字読者の問題を考えるために、広島大学の川口隆行氏、大妻女子大学の五味淵典嗣氏、韓国成均館大学の千政煥氏、ワシントン大学のE・Mack氏と共催で、「ひとの書物と書物の移動―1930年代、日本語「文学」の問題圏」というワークショップ(11月5日、広島大学)を企画した。 二つの共著が刊行された。4月には、Literature Among the Ruins, 1945-1955: Postwar Japanese Literary Criticism (New Studies in Modern Japan)がアメリカの Lexington Booksから刊行された。6月には、岩崎稔、成田龍一、島村輝編『アジアの戦争と記憶』(勉誠出版)が刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である2018年度は、基礎的な資料の集めと、研究成果の公開方法の模索、共同研究の基盤作りを行った。空間フレームに関する基本資料は、植民地朝鮮における空間形成をめぐる非文字資料(地図など)の収集および出版、建築物の研究で大きな注目を集めている建築家・冨井正憲氏の助言をえながら、資料集めを行っている。研究方法の工夫のために、多和田葉子『飛魂』を手がかりとしながら、非識字の問題を小説の分析のレベルで導入する作業を行った。これは共著、坪井秀人編『戦後日本文化再考(仮)』(三人社、2019年6月刊行予定)に掲載の予定である。 ワシントン大学、ライデン大学、シカゴ大学に長期滞在しながら、帝国日本の検閲を避ける形で、当地で刊行、輸入、流通された資料に触れる機会を得た。特に、ワシントン大学図書館とシカゴ大学図書館に、朝鮮人・日本人亡命者および移住者による非/合法的な資料、占領期の資料、帝国日本の検閲に関する資料、および貴重な地図などが多く保存されていることがわかった。それぞれの図書館の司書である田中あずさ(ワシントン大学)氏、吉村亜弥子(シカゴ大学)氏の全面協力を得ながら、研究を進めめていくための基盤を作った。科研の成果の出版が決まった。2020年度まで、日本語と韓国語の同時出版が予定されている。シカゴ大学の Kyeong-Hee Choi氏と帝国日本における出版・検閲・読者(非識字読者を含む)の問題について、共同研究(論文は共同執筆の形式をとる)を英語圏に発信していく企画をスタートさせた。帝国日本の空間フレームと非識字読者の問題について、異なる地域、異なる空間を生きる研究者とネットワークを構築することにより、単独の研究では実現しえなかった多元的な側面からの研究基盤作りが固まりつつある。その意味において、最初に提出した研究目標を充分に達成することが出来たと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
①1930年代前後における、合法/非合法出版の植民地読者の包摂にかかわる資料を分析する。メディアの発信者としての出版資本だけではなく、帝国側に対するメッセージ発信ツールとしての、資本を持たない側による「うわさ」「チラシ」「壁紙」「檄文」「ビラ」まで調査対象を広げる予定である。今年度は、これまでアーカイブ化が難しいと思われたこれらの資料を研究対象とするための新たな方法を模索する期間にしたい。朝鮮総督府図書館や京城帝大の蔵書についてはソウル大学奎章閣を中心に調べていく。民間に拡散されている空間をめぐる非文字資料については、すでにたくさんの資料を集めている建築家・冨井正憲氏に助言を求めながら進める。1934年前後帝国日本の外で作られたチラシ・ビラなどについては、上海、シカゴ、シアトル、LAからの移入があったのかどうかを調べたい。 ②国際会議を企画・開催する予定である。韓国成均館大学校文科大学CORE事業団・韓国細橋研究所と連携する形で、2017年に立ち上げた日韓人文学フォーラムの2019年冬開催をむけて日程を調整している。シカゴ大学の Kyeong-Hee Choi氏と共同研究の成果を英語で発信するための検討会(国際会議)をシカゴ大学で開催する予定である。帝国日本の空間フレームを考える上で避けて通れない沖縄と朝鮮の問題について調査を行うとともに、韓国慶熙大学比較文化研究所傘下国際沖縄センターとの共催で国際会議を開催する予定である。 ③本科研の期間内で研究成果を公開するために、単行本の執筆を行う予定である。
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Causes of Carryover |
日韓人文学フォーラムを準備していたが、韓国側の資金が充分ではなく、実現できなかった。2019年冬開催をむけて調整中である。
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Research Products
(7 results)