2019 Fiscal Year Research-status Report
「源平盛衰記」の出版と流布に関する研究―日本人の歴史観形成の一階梯―
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18K00295
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
岩城 賢太郎 武蔵野大学, 文学部, 准教授 (40442511)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 軍記物語の写本と整版本 / 近世期の出版文化 / 古活字版 / 乱版 / 無刊記整版 / 成簀堂文庫蔵写本 / 静嘉堂文庫蔵写本 / 源平盛衰記と太平記 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の主な研究実績は以下の2点である。 ①『源平盛衰記』写本諸本の閲覧調査:『源平盛衰記』の中世写本とされる石川武美記念図書館成簀堂文庫蔵写本の閲覧調査を共同研究者と共に複数回に渡り進め、同本全冊の主要な書入、校異、書写情報等に関する特徴や問題点を確認した。調査の過程で、名古屋市図書館鶴舞中央図書館河村文庫蔵『源平盛衰記』乱版が「古写本」とする朱の書入が、多く成簀堂文庫蔵本と共通していることも判明した。その後の静嘉堂文庫蔵写本の閲覧調査を経て、『源平盛衰記』写本諸本の本文は、各本の書写の姿勢等にも十分に留意した上で、特に一本に原態を辿れる状況にはなく、古活字版、乱版、整版の各種本文等も参照しつつ検討すべきものであることを確認した。 ②研究集会「源平盛衰記の出版と流布」の開催:2020年2月23日(日)11:00~17:30法政大学市ヶ谷キャンパスボアソナード・タワー25階会議室Bにて当研究課題の中間成果報告を兼ね公開の研究集会を開催した。出席者は全国の軍記物語研究、近世期出版、書誌学の研究者等約50名で、研究報告に続き活発な質疑応答があった。主要なプログラムは以下の通り。 岩城の共同研究の趣旨説明 報告①山本岳史氏:源平盛衰記の「語彙」について 報告②松尾葦江氏:古活字版の前と後―源平盛衰記の場合 報告③髙木浩明氏:『源平盛衰記』無刊記整版の「版」を考える 報告④岩城:『源平盛衰記』漢字片仮名交附訓整版本の成立を探る―古活字版と整版の関係 コメント:小秋元段氏 全体討議・質疑応答(司会小秋元氏) 併せて会場で本課題研究の調査資料として収集した資料をはじめ各種資料等の小展観を行った(無刊記整版源平盛衰記数種・元和寛永版源平盛衰記(巻31・32)・乱版太平記(巻33・34) 乱版源平盛衰記(巻17・ 18)・盛衰記歌(池田光政筆)・元和寛永版源平盛衰記3冊(法政大学文学部蔵)他)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画(1)『源平盛衰記』古活字版成立に関する調査研究、及び研究計画(2)『源平盛衰記』無刊記整版諸本の成立をめぐる調査研究は、研究実績の概要に示すごとくおおむね順調に進展している。 無刊記整版本の本文は、元和寛永古活字版本に訓を付したものが乱版本中の整版丁・古活字丁として出版され、乱版から整版本へと展開したという先覚が想定して来た展開を、付訓等を含めた具体的な本文例の検討、及び蒐集した各種の乱版・整版本資料から裏付けることが出来たと言えよう。だが一方では、この展開とは異なる例が、全巻の丁に渡り存在すること、即ち『源平盛衰記』の近世初期の出版が複数の書肆や経路等により、同時並行的に全巻の一部の丁に渡って行われていたことも、具体的に確認出来た。また、こうした『源平盛衰記』の近世初期における特殊且つ複雑な出版の事情が、『太平記』元和8年刊本・寛政8年刊本・乱版の出版の事情とも関わりがあることも一部の巻や丁から確認された。『源平盛衰記』片仮名交附訓整版本の形成をめぐる暫定的な模式図を提示し得る段階にまでは調査研究は進んだと言えよう。 また一方では、本研究課題の当初の計画では参照情報程度の関わりになると見通していた『源平盛衰記』写本各種の本文が、古活字版・乱版・整版の各種本文や、名古屋市図書館鶴舞中央図書館河村文庫蔵本のような書入・校合等の情報と比較検討することで、『源平盛衰記』の本文形成そのものの問題を追究することに繋がることを確認し、調査研究の着眼点は、『源平盛衰記』の成立そのものをも問う、より重要な問題にも展開しつつある。 一方、研究目的(3)近世後期から近代前期にかけての「源平盛衰記」受容の検討は、近代、現代初期までに出版された『源平盛衰記』の名を冠する各種の図書や資料の蒐集、複写等は前年度より継続したものの、資料の分析、考察には至っておらず、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況欄に記すごとく、本研究課題における調査研究が『源平盛衰記』の本文形成そのものを検討・検証する問題に繋がることが確認出来たため、研究課題の目標を、中世の『源平盛衰記』本文の形成や流布、展開の問題の検討・分析にまで発展させて行きたいと考えている。 本年度の調査研究、及び研究集会の報告・質疑の成果から見ても、近世期における『源平盛衰記』の流布を追究するためには、整版本に先行する乱版本文の更なる分析が必要である。但し、付訓等を含めた本文の形成過程、またその本文の妥当性の検討においては、付訓を有さない古活字版本の本文との比較分析では不十分であり、かつその検討に限界があることも確かである。訓を有する写本の静嘉堂文庫蔵本、蓬左文庫蔵本、成簀堂文庫蔵本の本文との比較分析をより精力的に、細密に進めて行くことは、その限界を補うばかりでなく、現時点で考え得る、『源平盛衰記』の本文を追究する最も有効な研究方法であろう。特に公刊の画像資料のない成簀堂文庫本には、他の諸本とは異なる書入他の校合本としての性格が伺え、当該本からのみ得られる情報も多いことから、閲覧調査を継続し、古写本とされる当該本の本文をも再検討しつつ、近世期初頭における本文形成を追究したい。また訓については、平仮名書き本文主体の写本である近衛文庫蔵本にも参考となる点があると思われるため、閲覧調査、及び本文の複写を行いたい。 なお、撮影を含めた閲覧調査を終えた乱版の鶴舞中央図書館蔵河村文庫本については、当該本に見える古写本との校合等に関する書入に注目して比較検討を進めており、当該本と成簀堂文庫蔵本の本文との関連等をめぐり研究成果を論文化する予定である。 また、近代前期にかけての「源平盛衰記」関連資料の一覧・解題作成に向け、既に蒐集を終えた各種資料の書誌データ、解題作成を進める予定であり、その成果公表の媒体についても検討して行きたい。
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Causes of Carryover |
本年度末の2月末から3月にかけて予定していた閲覧調査が、現下の社会状況の影響で行えず、予定していた関連経費の支出がなかった。また、今後の推進方策欄に記したごとく、『源平盛衰記』写本諸本の調査という、より詳細かつ時間を要する調査研究を進めて行くべく研究計画の調整、部分的な修正を行ったため、新年度の調査研究経費の支出が見込まれるため、折を見て本年度の研究経費の支出節減に努めてもいた。 本研究課題の残り1年という研究期間、及び現今の社会状況下では、成簀堂文庫蔵写本をはじめ、本研究の推進、完結に欠かせない関連資料の閲覧調査が、従前と同様に継続される見通しも立たない。新年度の資料所蔵先や研究機関における閲覧調査の可否や状況、及びその調査の進展の程度によっては、本研究課題の遂行を1年延長せざるを得ない事態になることも想定されるため、特に本年度末の研究経費の支出については節減に努めたという経緯もあった。 また、本年度2月末の研究集会開催後に研究協力者とも相談し、次年2020年度にも再び調査研究の報告、及び関連分野の研究との接合を図り、研究集会を開催することの必要、有効性を確認したため、新たな研究集会の開催の計画に向け、当初計画していた本年度末の研究経費の支出を中止し、研究経費全体の支出節減に努めたという事情もある。
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Research Products
(2 results)