2020 Fiscal Year Research-status Report
「源平盛衰記」の出版と流布に関する研究―日本人の歴史観形成の一階梯―
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18K00295
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
岩城 賢太郎 武蔵野大学, 文学部, 准教授 (40442511)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 成簀堂文庫蔵源平盛衰記 / 古活字版と軍記 / 整版と軍記 / 乱版と軍記 / 源平盛衰記の和歌 / 蓬左文庫蔵源平盛衰記 / 慶長古活字版源平盛衰記 / 元和寛永古活字版源平盛衰記 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに研究力者と共に進めた閲覧調査の確認と検証をし、本課題研究者が昨年度の研究会や研究集会で行った口頭発表の一部を、論文「成簀堂文庫蔵写本『源平盛衰記』所載歌本文小考―巻第四十八所収志賀寺上人説話をめぐって―」にまとめた(課題研究者所属の研究機関刊行紀要、及び機関リポジトリにて公開)。石川武美記念図書館成簀堂文庫蔵『源平盛衰記』写本(以下、成簀堂文庫本)の本文とそこに見える種々の書き入れの内、巻第48後半に見える和歌に関する書き入れをめぐって、古活字本・乱版・整版本の本文、及び写本の蓬左文庫蔵写本の本文(本文と書写形態及び異文注記)との比較検討を行い、成簀堂文庫本が、諸本の載せない和歌一首を加えた贈答歌を収めるかたちの本文となっている点が、『源平盛衰記』の本来的本文と言えるのか、或いは本文の古態性を窺わせるものであるのかを考察し、成簀堂文庫本の本文と和歌に関する書写形態の特徴、問題点について指摘した。関連する贈答歌本文を載せる『太平記』が天正期写本に限られることから、当該本文や書き入れが、先覚が指摘する校合に関する弘治二年(1556)にまで遡るものであるかに疑義を示しつつも、現在のところ、成簀堂文庫本が『源平盛衰記』の本来的な本文や古態的本文を追究、検証するための有力な資料である点は疑いないものと結論した。 また、本課題研究の一部の研究成果に基づき、小論「義仲の”命の親”実盛」を執筆した(『第160回文楽公演 令和2年10・11月 国立文楽劇場』公演解説書6-7ページに掲載)。 口頭発表としては、「『平家物語』建礼門院六道語りの本文に引かれる物語歌について」をオンラインの研究会で行った。『源平盛衰記』はじめ、読み本系『平家物語』諸本の建礼門院徳子の六道語りに関する本文に、『源氏物語』『狭衣物語』に触れる本文が見えるが、その異質性と問題点とを指摘、検証したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はコロナ禍の影響で『源平盛衰記』関連の写本・版行本等の古典籍の閲覧調査が叶わなかった。昨年度まで調査を重ねていた成簀堂文庫本の調査も出来ず、また他の研究機関蔵の古典籍資料の閲覧調査についても、緊急事態宣言期間中の移動制限等もあり、一度も行えなかった。本課題研究の対象である『源平盛衰記』古活字本と近世期整版本の調査研究は、調査、検討を重ねて行く中で、中世後期から近世初期頃の写本の本文調査をも必然とすることが明らかとなり、昨年度までは3名の研究協力者と共に、複写申請の叶わない原典資料の閲覧調査を重ねていた。成簀堂文庫本の本文と書き入れの調査、検討も、本課題研究開始後に浮上した『源平盛衰記』の本来的本文、及び古態性本文の遡求という副次的な研究課題に関するものだが、慶長期から寛永期頃にかけての『源平盛衰記』版行本における古活字版(2種)→乱版→整版本(敦賀屋久兵衛奥付本)という版行本の展開と、その本文の形成、及び近世期における受容を検証する上でも有効であるため、成簀堂文庫本の閲覧調査の再開が許可され次第、継続したいと考えている。 一方、本年度は、本課題研究の基礎資料である近世期初期版行本2種を、古書肆を介して入手することが叶った。一本は敦賀屋久兵衛奥付本(目録冊欠の24冊、但し当該資料は私費で購入)であり、一本は古活字版反古入丹表紙本(全25冊)である。『源平盛衰記』版行本における、古活字版本→整版本という展開については、漢字片仮名交の本文の細部(振り仮名、濁音符、合符、訓点、句読点、等)、及び版面や書誌的な特徴等を具に検討する必要があり、現在も当該資料の書誌、及び本文調査を継続し、その調査データの一覧化を行っているが、『源平盛衰記』整版本における最初期のものと目される上記の資料を座右に、調査を進めることが可能になったため、調査データの一覧化の完成に努めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題研究の最終年度に当たる2021年度は、古活字版本・乱版本・整版本の調査、調査データの一覧化、閲覧調査を行った書誌調査の集成等をまとめた、調査・研究報告書(私家版)の作成と発行及び本課題研究者所属機関リポジトリでの公開を行うことを以て、課題研究の総括を行いたい。調査・研究報告書の項目としては具体的には、以下のものを想定しており、研究協力者による調査研究の成果をまとめた論考等も依頼する予定である。 ①名古屋市立図書館鶴舞図書館河村文庫蔵乱版『源平盛衰記』の調査研究報告:河村文庫蔵乱版には一部の冊に、「古写本」とされる『源平盛衰記』本文が朱で書き込まれていることから、その書き入れの一覧化の作成、及び当該箇所の成簀堂文庫本の本文との対応の有無等を一覧化した上で(成簀堂文庫本は調査実施箇所のみ)、近世中期における『源平盛衰記』「古写本」と受容の様相について考察する。 ②『源平盛衰記』乱版伝存確認資料一覧及び書誌解題:本課題研究を通して伝存が確認された乱版数種の書誌情報を報告する。 ③蓬左文庫蔵本『源平盛衰記』写本の本文による『源平盛衰記』校訂本文の試作版:蓬左文庫蔵本の一部の巻のみを対象都市校訂本文を提示する。本項目は研究協力者に寄稿を依頼する予定。 ④近世期『源平盛衰記』版行本本文の形成とその受容・展開:本課題研究者による研究成果報告の論考、『源平盛衰記』版行本形成に到る模式図の提示。 ⑤『源平盛衰記』各種関連書籍・資料の紹介・解題:本課題研究を通して蒐集した近世期の和歌関連資料、浮世絵、近代発行書籍等の一覧及び解題。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、2020年度に予定した調査研究と研究成果の総合を進めることが叶わず、当初3年間の予定であった本研究課題の研究期間を1年延長した。本課題研究の最終年度2021年度における研究の継続と研究成果総括、公開のための研究費として、次年度使用額の計上を行った。使途としては、主に以下の2点を想定している。 ①石川武美記念図書館成簀堂文庫の閲覧調査が再開され次第、成簀堂文庫本の閲覧調査を継続したいため、閲覧使用料が必要である。 ②本課題研究の研究代表者及び研究協力者3名の調査報告及び論考をまとめた「調査・研究報告書(私家版)」の作成と発行を計画しており、それにかかる編集・印刷刊行の経費が必要である。
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Research Products
(2 results)