2021 Fiscal Year Research-status Report
「源平盛衰記」の出版と流布に関する研究―日本人の歴史観形成の一階梯―
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18K00295
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
岩城 賢太郎 武蔵野大学, 文学部, 准教授 (40442511)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 源平盛衰記 / 乱版 / 古活字版 / 黒川本 / 軍記物語 / 早稲田大学中央図書館 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究活動として唯一特記すべきは、早稲田大学中央図書館蔵『源平盛衰記』目録及び巻第1-48・全25冊(請求記号リ05-05356)の閲覧調査を、2021年9月17日(金)及び9月24日(金)の2日間にわたり行ったことである。『源平盛衰記』の本文は、中世に遡ることが出来る資料が稀であり、かつて黒川本と称された室町期の寄合書の『源平盛衰記』全巻にわたる写本が残されていたが、関東大震災により焼失した。その黒川本を大正末期に種村宗八が閲覧調査し、近世期の無刊記整版本『源平盛衰記』に黒・朱・藍等のインクで校合を書き入れたものが、早稲田大学中央図書館蔵本である。従来から同本の存在は知られていたが、閲覧調査はごく限られた研究者が行い、その本文研究は軍記物語研究一般にあまり共有、還元されているとは言えない状況であったが、今回、調査に際し撮影・電子データ化を依頼したデータは早稲田大学中央図書館に寄贈し、下記の早稲田大学図書館「古典籍総合データベース」サイトで2022年3月末より公開されている。 https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ri05/ri05_05356/index.html 黒川本の本文に関する資料が、ひろく一般に閲覧出来る状況になったことは、今後の『源平盛衰記』本文研究にも資するところが大きいと思われるが、閲覧調査を行った結果、当該本は、全巻が整版本であるわけではなく、古活字版の丁を多数含む、従来知られている『源平盛衰記』乱版の本とも異なる構成を有する特異な本であることが分かった。早稲田大学本のこうした特色は、電子上に公開された画像では判別が付きにくく、摺刷の状態を閲覧調査を通して確認しなくては判別できないため、調査報告を紀要にまとめる予定であったが、年度内には成果の分析、とりまとめが叶わなかった。2022年度研究での成稿を期したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度も、研究成果の総合と連携をはかりながら研究を進める予定であったが、コロナ禍における資料所蔵の各機関における閲覧中止、閲覧制限等があり、本課題研究開始後2年間に継続的に研究協力者と共に進めていた中世・近世期の『源平盛衰記』写本や版行本に関する閲覧調査は依然として中止状態であった。また本課題研究者自身の勤務校における管理職的業務の過多などもあり、研究発表が行えず、また、予定していた早稲田大学中央図書館蔵黒川本の調査研究報告と課題とを内容とする予定の研究論文執筆が行えなかった。 断続的に閲覧調査を進めてきた一般財団法人石川武美図書館成簀堂文庫蔵写本の調査の再開を部分的には予定しているが、その完了は次年2022度の研究最終年度にも困難であることが見込まれるため、当初2年間において行った断片的ではあるが、閲覧調査の部分的な成果から、書誌調査の概略を調査研究報告のかたちで論文化することを行いたい。 但し、本課題研究は現在に至るまで、従来、ほぼその詳細が分析されず概略や見通しを以て進められてきた『源平盛衰記』本文について、その具体的な訓を含めた読みと享受のかたち検討するために必要な近世期初期の古活字版資料(乱版本等)と、古版本に準ずる資料(敦賀屋久兵衛奥付本等)と、その資料調査及び資料収集については、既に十分に進められたものと考えている。従来の指摘や研究に付加する、修正する具体的な検討例や資料調査の蓄積があるため、次年度2022年度の本課題研究最終年度の研究の総括がなし得る段階にあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
①2022度は夏期より、一般財団法人石川武美図書館成簀堂文庫蔵『源平盛衰記』写本の調査を限定的ながらも再開し、既に閲覧調査を終え、全丁の撮影も終えている名古屋市図書館鶴舞中央図書館蔵河村文庫本『源平盛衰記』乱版に朱で書き入れられている本文等との校合、比較分析を行い、河村文庫本の解題及び調査研究報告として論文としてまとめる予定である。 ②2021年度に叶わなかった、早稲田大学中央図書館蔵本乱版『源平盛衰記』解題・調査研究報告の論文として、勤務校の所属研究機関刊行の紀要にまとめる予定である。 上記の①②の論文をまとめる中で、本課題研究最終年度の総括として、所謂『源平盛衰記』流布本としての付訓漢字片仮名交無刊記整版本の本文が、慶長古活字版(無訓漢字片仮名交本文)から元和寛永頃古活字版(無訓漢字片仮名交本文)へと展開した後、整版と古活字版それぞれに付訓漢字片仮名交本文を備えた混交の乱版が刊行され、それと並行して一方では、乱版古活字丁を覆刻しながら整版丁が調えられ、敦賀屋久兵衛奥付本のような全丁が整版の初期の付訓漢字片仮名交本文として刊行されるに至ったことを示す予定である。 付訓漢字片仮名交本文の整版本の成立は、従前からも乱版が先行することが指摘されていたわけであるが、本課題研究を通して、それは単純に、古活字版→乱版→整版という展開を辿ったわけではなく、漢字片仮名交本文に、いかに付訓を施すかという過程の中で、古活字の付訓漢字と整版の付訓漢字とがそれぞれ、一方では古活字を参照しつつなされ、一方では古活字とは無関係に付訓を付しつつ、それぞれになされたことを、具体例を多く交え論証する予定である。中世の語彙の所見例として指摘されることが多い『源平盛衰記』本文を参照する際には、今後、慶長古活字版本文の参照と同時に、乱版と敦賀屋久兵衛奥付本と双方の本文の比較確認が同時になさねばならないことを示したい。
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Causes of Carryover |
2021年度は、コロナ禍により、一昨年度まで研究協力者3名と共に行っていた一般財団法人石川武美記念図書館成簀堂文蔵庫『源平盛衰記』写本等の文献資料の閲覧調査が出来なかったため。 2022年度も現在のところ、一般財団法人石川武美記念図書館では、研究協力者と共に複数名での閲覧調査は許可されておらず、一日の資料の閲覧調査の時間等にも制限があるものの、資料の閲覧調査自体は再開されているので、研究協力者による資料の閲覧調査の際の協力、助言、指導は断念し、本課題研究代表者のみでの資料の閲覧調査を可能な限り回数多く行いたい。その有料の資料の閲覧調査にかかる経費の支出が、本課題研究の残額の研究費の主たる使途となる予定である。
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