2019 Fiscal Year Research-status Report
A New Study on Re-evaluation of Haikai in The 18th and 19th centuries
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18K00296
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
伊藤 善隆 立正大学, 文学部, 准教授 (30287940)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 近世文学 / 俳諧 |
Outline of Annual Research Achievements |
化政期の俳人たちの活動に関わる資料を中心に、その前後の時代を含めた俳諧資料の調査・分析を行った。成果の概要は、以下のとおりである。 本年度は、手錢記念館(島根県出雲市大社町)に所蔵される資料中に、手錢家五代目当主有秀に宛てた諸国の俳人たちからの書簡九通が新たに見出されたことが、研究活動上の重要な出来事となった。これまで存在が確認されていなかったこれらの書簡の分析を行うことで、口頭発表(「近世俳諧史と大社俳壇―手錢記念館所蔵資料から見えてくるもの―」「『万家人名録』前後―手錢記念館所蔵資料から―」)と論考(「近世俳諧史と大社俳壇―手錢記念館所蔵資料から見えてくるもの―」「『万家人名録』刊行前後―手錢有秀宛俳人書簡―」)をまとめることができた。 上記の発表・論考では、『万家人名録』(文化十年刊、手錢記念館には有秀所用本が所蔵される)の企画が、書簡による各地の俳人たち同士の交流が活発化した中興期以降の時代風潮を巧みに捉えたものであったことを明らかにした。また、蒼〓(虫に礼の旁)書簡(松江天神町連中宛、年次不明五月廿五日付、個人蔵)他の資料を検討し、化政期以降、月並句合の流行に伴って、出雲の俳人たちと京都の宗匠との結びつきが強まっていたことを具体的に示した。さらに、このことは、たとえば松江の俳人山内曲川が京都で活動していた蒼〓の弟子の万籟に入門したことの伏線になること、つまり、地方俳人たちの師弟関係や俳諧活動のあり方が地縁や血縁を中心としたものから三都の宗匠との結びつきを重要視するものに変化していったことを指摘した。 以上が、当該年度の実績の主なものである。他にも、奥出雲や石見に関係する俳諧資料の紹介分析、また大名俳諧に関する資料の調査紹介等を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
手錢有秀所用の『万家人名録』や有秀が交遊した俳人たちの名簿「諸国誹人名寄」が存在することは、これまでの手錢記念館の調査ですでに確認、報告済みであった。ただし、その交遊の具体的な様子を明らかにする資料がなかったところ、本年度になって有秀宛の俳人書簡が見出されたことは、これまでの調査の空白を埋める意味のある大きな出来事であった。 有秀宛俳人書簡の分析によって、『万家人名録』の特徴を明らかにし、併せて出雲俳壇のあり方についても具体的な裏付けを得ることができた。 このことによって、本研究の核心である「都市俳諧・地方俳諧の時代から月次俳諧の時代へ」という見取り図に、近世中期から幕末期に至る出雲俳諧史を、より明確に位置づけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、これまでと同様、地方俳人と三都の宗匠たちとの結びつきのあり方を具体的に明らかにするため、月次句合の返草や募句チラシ、また当時の宗匠の書簡などを調査検討する必要がある。 同時に、当時の俳人たちの価値観を明らかにするため、句集の序跋、あるいは伝書や作法書、また古注釈などを調査検討する必要がある。とくに、これまで比較的等閑視されてきた諸派の伝書類について、具体的に明らかにしていく必要がある。 上記の研究を進めるにあたっては、これまでと同様、資料の調査収集と読解を手段として、情報を蓄積していく。その結果として、近代人の「文学」に対する評価とは別の価値観、すなわち当時の俳人たちの価値観を具体的に明らかにする。
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Causes of Carryover |
収集対象となり得る近世俳諧資料を探索したが、より適切な資料を探し得ず、結果として残金が生じた。次年度に繰り越し、より適切な資料を収集するために使用する。
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