2018 Fiscal Year Research-status Report
1910~30年代の文化メディアにおける日中相互表象の形成と展開
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18K00297
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
篠崎 美生子 明治学院大学, 教養教育センター, 教授 (40386793)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 靖彦 実践女子大学, 文学部, 准教授 (40449111)
庄司 達也 横浜市立大学, 国際総合科学部(八景キャンパス), 教授 (60275998)
楊 志輝 恵泉女学園大学, 人間社会学部, 准教授 (60367141)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中国 / 日本 / 近代 / 相互表象 / メディア / 芥川龍之介 / 聴講ノート |
Outline of Annual Research Achievements |
1910年代から30年代にかけて日本人が抱いた「中国」表象と、中国人が抱いた「日本」表象を、広義の文化メディアを通して分析するために、今年度は以下のことを実施した。 1.「芥川龍之介聴講ノート「支那戯曲講義」塩谷温助教授」の翻刻を進める傍ら、芥川龍之介旧蔵書にある『陳眉公批西廂記』がその教科書であることの検証と、その書物の流通状況について調査を始めた。具体的には、古書店で芥川旧蔵書と同様の『陳美公批西廂記』を入手、この書物への書き込みと「聴講ノート」の記載の共通点を見出すことで、この書物が東京帝大のテキストであった可能性を立証しようとしている。 2.上海の日本語メディアの研究に関する第一人者、大橋毅彦氏の講演会を実施した。(「『大陸往来』『黄鳥』初探」2018.9.30 明治学院大学にて) 3.上海図書館で雑誌『宇宙風』(1935-1947)の総目次及び「日本」関連記事のコピーをとり、「日本与日本人特輯」を中心に当時の知日派中国知識人の「日本」に対する両義的認識の分析の準備を整えた。また、1919年に刊行された『毎週評論』のコピーも入手、五・四運動時におけるインターナショナルかつ民主的な言説の分析を始めた。 4.日中の言説、表象の関係について各自の関心に基づいて研究を行い、複数のシンポジウムでの研究発表やシンポジウムの企画を行った。①《谷崎潤一郎》中国題材作品研究)国際シンポジウム 上海杉達大学 2018年11月4日 篠崎美生子「「陰翳礼讃」ーわれわれとは誰かー」 ②上海杉達大学《中国文化与日本文学》学術シンポジウム 2019年3月11日 庄司達也「教養としての漢詩 島崎藤村「小諸なる古城のほとり」をめぐって」、篠崎美生子「記号としての「魯迅」と「芥川」-林京子のポジションについて- (ゲスト講師として大橋毅彦、ゲストコメンテーターとして嶋田彩司、林ハイ(女偏+凧)君)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定したすべての項目について、順調に進展しているわけではないが、総合的にはおおむね順調な進み具合であると判断できる。 予定よりも進行が遅れているのは、「芥川龍之介聴講ノート「支那戯曲講義」塩谷温助教授」の翻刻作業で、これはメンバーの中に京劇の専門家がいないことが大きな理由であるため、今後は京劇の専門家のアドバイスをより積極的に受けることにしたい。また、中国紙『申報』と日本紙との比較、湾生作家の研究は進めることができておらず、東亜同文書院関連の研究も、書物購入にとどまっている。 一方、芥川龍之介旧蔵書の『西廂記』と「聴講ノート」と対応関係を検証し、この本が東京帝国大学における塩谷温助教授が用いたテキストであることがほぼ確かなものとなったのは、大きな収穫であった。また、ひごろから日中の相互表象に注意を向けることで、 谷崎潤一郎、島崎藤村、芥川龍之介、魯迅、林京子などにまで射程を広げて、シンポジウムの形で成果発表をすることができたことも、予想以上の進展であったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、「芥川龍之介聴講ノート「支那戯曲講義」塩谷温助教授」の翻刻の完成をめざすとともに、出版方法を模索したい。その過程で、この方面の専門家である上原究一氏(東京大学)や、塩谷温の子孫の方のお話を伺うことをひとつの目標としたい。また、翻刻作業の過程で、芥川龍之介旧蔵書中の『陳美公批西廂記』を日本近代文学館の許可を得てコピーし、「聴講ノート」及び別の古書の書き込みとの対照を行い、この書物が東京帝大で教科書として使われたことを立証するとともに、その意義について考察を深めることにする。 また、翻刻に関しては、出版の形での成果発表に先んじて、国際芥川龍之介学会(8月に実施予定)におけるパネル発表での中間報告も目指している。 同時に、初年度にできなかった『申報』記事の収集を行い、『大阪毎日新聞』などの記事と対照させたい。湾生作家の研究、東亜同文書院関連の研究も、それに準じて進める予定である。
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Causes of Carryover |
交付申請書作成段階では、2019年3月に実施された《中国文化与日本文学》シンポジウム(中国・上海杉達大学)に科研費を用いて参加する計画であったが、篠崎が上海市の2018年度海外名師に選ばれ、シンポジウム開催に関する費用すべてが上海市より交付されることになった。そのため、予定していた海外旅費を用いなかった。また、篠崎が2018年度、恵泉女学園大学から明治学院大学に異動、前任校の残務などのために多忙であったことから、国内旅費を用いて東亜同文書院関連の調査に出向くことができず、その点でも、旅費を予定通りに使うことができなかった。 次年度は、上海市からの助成はないため、中国や国内での資料収集、シンポジウムや学会での成果発表のために差額を用いるほか、さらに余剰があれば、資料のコピーと購入のために、有効に用いる予定である。
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Research Products
(7 results)