2020 Fiscal Year Research-status Report
民間の視座を導入した中国通俗文学の「自国化」の研究―受容文化の多角的戦略―
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18K00310
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
勝山 稔 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80302199)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 浩一 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 非常勤講師 (40587169)
朱 琳 中部大学, 中部高等学術研究所, 研究嘱託・研究員 (50815925)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 辛島驍 / 三言 / 白話小説 / 林房雄 / 宇佐美延枝 / 白蛇伝 / 金子彌平 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は①『警世通言』卷二八「白娘子永鎭雷峰塔」の辛島驍訳の発見とその分析、②辛島驍訳本の発見と林房雄による小説化の問題、③宇佐美延枝「唐伯虎」(1898)と金子彌平との関係をについて検討を試みた。 ①の内容を要約すると次の通りである。中国民話の白蛇伝は、日本で映画化・アニメ化・演劇化が行われている。しかし、中国の白蛇伝関連作品は多岐にわたる。そのため戦後日本で白蛇伝がいかなる作品から受容されたのかは不明であった。しかし今回の調査で日本での受容の最初期に制作された映画『白夫人の妖戀』のシナリオに、明代短篇白話小説『警世通言』巻28の翻訳が用いられていたこと、そしてこの邦訳が日本初の全訳であることが確認された。 また②では、中国文化の日本受容に関する考察の一環として、明代短篇白話小説の翻案作品である林房雄『白夫人の妖術』による改変と創作を分析した。林房雄による『妖術』には、原典となる「白娘子」の原文にどれほど準拠しているか、また文脈にどれほど準拠しているかの兼ね合いから三つに分類できた。また作品の根本をなす設定である「妖怪」に対する中国と日本の認識の違いが、白夫人というキャラクター像にも影響を与えていた。このような『妖術』による翻案や創作は、明代と現代、そして中国と日本という相異なる読者の持つ予備知識の差異への対応であった。更に作品の結末の大幅な改変が可能となったのは、白夫人という「妖怪」から導き出される中国と日本における認識の相違に由来した結果であることが明らかになった。そしてこれら『妖術』における一連の翻案や創作の多くは、中国明代の小説が、戦後日本で読まれるために施された自国化に向けた受容活動の現れであると考えられるとした。 そして③では宇佐美延枝による『警世通言』巻二六「唐解元一笑姻縁」(1898)の翻訳と、夫の金子彌平との関係をについて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況ですが、「三言」の翻訳の発見が予想外に相次ぎ、その分析と対応に追われた。本年度は『警世通言』卷二八「白娘子永鎭雷峰塔」の辛島驍訳の発見とその分析、そして宇佐美延枝による『警世通言』巻二六「唐解元一笑姻縁」翻訳の発見とその分析に追われた。また今年度は考察できなかったが、○「小説 三孝廉(上)」榛原茂樹『同仁』4巻3号、昭和5(1930)年3月号、○「小説 三孝廉(下)」榛原茂樹『同仁』4巻4号、昭和5(1930)年4月号、○「李白伝」榛原茂樹『同仁』4巻5号、昭和5(1930)年5月号、○「小説 薄情郎を打つ」榛原茂樹『同仁』4巻8号、昭和5(1930)年8月号、○「荘子とその妻」近藤総草『満蒙』11年5号、昭和5年5月(『警世通言』巻2)、○「因果はめぐる」近藤総草『満蒙』11年6号、昭和5年6月(『古今小説』巻27)、 ○「煉炭美人局」近藤総草『満蒙』11年7号、昭和5年7月(『初刻拍案驚奇』巻18)、○「ある殺人事件」近藤総草『満蒙』11年11号、昭和5年11月(『初刻拍案驚奇』巻11)と新発見の翻訳が目白押しであるので、来年度はこれらの新発見の翻訳の分析に専念したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では発見した榛原茂樹の翻訳である①『醒世恒言』巻二「三孝廉譲産立高名」、②『古今小説』巻二七「金玉奴棒打薄情郎」、③『警世通言』巻九「李謫仙酔草嚇蛮書」と近藤総草による翻訳である④『古今小説』巻二七「金玉奴棒打薄情郎」、⑤『警世通言』巻二「荘子休鼓盆成大道」、⑥『初刻拍案驚奇』巻一一「惡船家計賺假屍銀 狠僕人誤投真命状」、⑦『初刻拍案驚奇』巻一八「丹客半黍九還 富翁千金一笑」の翻訳状況と受容史上の位置付けについて検討する。また昨年度も論及した『警世通言』卷二八「白娘子永鎭雷峰塔」であるが、辛島驍訳の他に林房雄による小説化のほかに、『白夫人の妖戀』(1956)として東宝で映画化が行われている。この問題については、『白夫人の妖戀』の映画研究で有名な嘉興学院専任講師の劉韻超先生と共同研究を実施し、共著論文を発表する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス流行のため、資料収集のための出張が延期もしくは中止を余儀なくされたためである。
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