2020 Fiscal Year Research-status Report
江戸明治期漢文笑話集の訳読と研究―江戸後期から明治初期の漢文笑話集を中心に―
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18K00313
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
磯部 祐子 富山大学, 大学本部, 理事・副学長 (00161696)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 漢文笑話 / 江戸時代 / 笑堂福聚 / 諧謔精神 / 批判精神 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、江戸後期から明治初期の漢文笑話集および漢文小説に収められた漢文笑話の所蔵・書誌の調査、訳読と作品の分析を行い、各話の特色、パロディ化された出典の変遷を導くものである。これにより、江戸後期および明治の漢文笑話が、江戸前期笑話の特徴であった小咄の翻案や中国『笑府』の模倣の枠を超えて、風刺性・物語性がより増加していくことを導き、その背景を考証する。同時に、作品の使用語彙から、江戸後期文人の中国文学等の書籍受容の多様性を明らかにする。一方、江戸前期漢文笑話集の一部に見られた「長文で物語性ある笑話」が、後期笑話本では更に増え、同時に、笑いを内包しつつも一つの漢文による短文説話的なジャンルを形成していったことを検証する。以上により、江戸後期漢文学の「日本化」、明治の、漢学衰退後の漢文体文学再興に際して漢文笑話がもたらした役割についても言及する。最終的には、日中笑話比較の視点から日本的笑いの特質を明らかにする。 今年度は、コロナ禍の下、版本調査および書誌的な整理はかなわなかったが、山本北山『笑堂福聚』53話の訳読を完成することができた。本書の訳読完成によって、江戸後期の漢文笑話の多様性の一端が明らかになった。 例えば、『笑堂福聚』後半部の数話は、漢文笑話が単なる諧謔精神のみならず諧謔精神によって力強く描写されている。そのうち、51話「玄恵の六罪を批す」はかなりの長文で、もはや笑話の域を脱しているともいえるが、『太平記』を題材に、その作品の真偽を考証するにとどまらず、体制を批判した一話とみることもできるものである。また、53話「暗合家」は、先人の説を剽窃し自説の如くふるまう人々に対する嘲笑の一話であるが、同時に大田錦城と目される人物に対する学問批判ともいえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
漢文笑話集の訳読に基づく作品研究は順調に進んでおり、当該年度も2本の論文を発表した。ただ、コロナウイルスの感染拡大により、予定していた国内外の図書館等における版本調査については、今後コロナ禍の状況を見ながら実施することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
既に訳読及び小咄との比較考察を終えた漢文笑話テキストについて、継続して公表していく。同時に、未考察の漢文テキストの訳読を行う。
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Causes of Carryover |
一昨年度から予定していた書誌学的調査および研究発表などが中止になったことにより、予定額の執行には至らなかった。今後は、コロナウイルス感染拡大状況を見ながらではあるが、この計画を補うべく、書誌学的調査および研究発表にも更に力を注ぎたい。
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Research Products
(2 results)