2021 Fiscal Year Research-status Report
江戸明治期漢文笑話集の訳読と研究―江戸後期から明治初期の漢文笑話集を中心に―
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18K00313
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
磯部 祐子 富山大学, 大学本部, 理事・副学長 (00161696)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 漢文笑話 / 江戸時代 / 笑門 / 落語の興行 / 漢籍受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、主に、江戸後期の漢文笑話『笑門』序文及び全三十八話について訳読と解説を行い、『笑門』全体の特徴と文化史的背景を考察した。 本書の特徴は以下のようである。 ①全三十八話のうち、小咄本隆盛期の明和・安永期の作品集所収の小咄、及びそれよりやや早い享保、寛延期の小咄に全部で十九話の類話を求め得る。②同時に、寄席興行の影響を受けて落語にも類話が存在する。一方、③「新作(創作)」は、中国古典をさりげなく入れ込んで一話を作るという特色をもつ。ただ、④初期の漢文笑話集が「四書五経」等の語句使用の意識が先にあったのに対し、『笑門』においては、ストーリーが先にあり、その中で、偶々ふさわしい古典の語句をさりげなく用いる傾向にある。他方、⑤基づいた小咄には小気味よい会話の応酬や心情表現があったが、『笑門』においてはそれが十分に漢訳されていないことが指摘できる。しかしながら、⑥本書の笑話は、全体を通じて簡潔な対話によって作られた、理解の食い違いから引き起こされる純粋な話が多い。 本書が出版された江戸中期以降の文化背景に目を転じれば、中国書からの翻訳である『通俗三国志』『通俗西遊記』などが出版され、同時に、『太平記演義』『忠臣庫』などが創作されるようになっていった。つまり、「四書五経」や詩文の雅なる漢文世界に加えて、小説や笑話など俗なる漢文世界を同時に受容するようになったと言える。また、藩校や私塾の増加によって「教育爆発」の時代 とも言われるように、漢文学習者そのものの裾野の広がりもあった。加えて、寛政期ごろ、江戸においては落語が流行するなど「笑い」受容の環境が醸成されていった。 以上のようなことが漢文笑話『笑門』出版の背景にある。江戸後期の『笑門』の出版は、いわば、学びの層の変化拡大と笑いを享受する時代がもたらした文化事象の一つともいえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
漢文笑話集の訳読に基づく作品研究は順調に進んでおり、当該年度も2本の論文を発表した。また、中国書需要についても中国語で発表した。ただ、コロナウイルスの感染拡大により、予定していた国内外の図書館等における版本調査については、今後コロナ禍の状況を見ながら実施することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
既に訳読及び小咄との比較考察を終えた漢文笑話テキストについて、継続して公表していく。同時に、未考察の漢文テキストの訳読を行う。
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Causes of Carryover |
研究開始当初から予定していた書誌学的調査および研究発表などが中止になったことにより、予定額の執行には至らなかった。今後は、コロナウイルス感染拡大状況を見ながらではあるが、この計画を補うべく、書誌学的調査および研究発表にも更に力を注ぎたい。
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