2018 Fiscal Year Research-status Report
戦中戦後期農民文学の展開と変容の研究―アイルランド文学と東アジアとの関係を軸に
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18K00314
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
鈴木 暁世 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (60432530)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 比較文学 / 農民文学 / アイルランド / 東アジア / 植民地 / 演劇 / 社会運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
昭和期における日本の農民文学運動について、特に戦中期の日本においてアイルランド文学がどのように受容されたのかという点を中心に研究を進めた。さらに、日本における受容を、台湾、朝鮮半島におけるアイルランド文学の受容史や農民文学運動と比較するこによってアイルランド文学の東アジアにおける受容と相互交渉とを立体的に明らかにしようとした。研究実績の概要は以下の三点に集約される。 1. 台湾・国立政治大学台湾文学研究所における国際シンポジウム「從帝國到冷戰的文化越境與生成」(11月)において、研究発表「〈戰爭時期日本的「葉慈」-愛爾蘭文學的接受與民族主義〉」)を行い、日本におけるアイルランド文学の受容がいかにナショナリズムと結びついていたのかという点を明らかにした。研究成果を論文として日本語および中国語で発表した(11月)。その際、台湾、朝鮮半島における農民文学運動におけるアイルランド文学受容について専門家と議論を行い、新たな視点を得た。 2.上記の成果を受け、国立台湾大学において旧台湾帝国大学時代の雑誌を調査し、台湾におけるアイルランド文学受容及び農民文学受容の関わりを示す資料を収集した。 3.日本文学とアイルランド文学、英語文学との相互交渉、文学とプロパガンダの関わりに関する研究を進め、学会及び研究会において以下を含む7回の研究発表を行った。「郡虎彦「義朝記」成立の背景―演劇、プロパガンダ、女性参政権運動―」(有島武郎研究会第63回全国大会シンポジウム、6月)、「郡虎彦『道成寺』について」(東アジア古典演劇研究会第8回公開講演会、10月)、「「日本文学史と「ケルト」」(第38回日本ケルト学会研究大会フォーラム・オン、10月)、「英国に残る資料を通して戯曲について考える 郡虎彦のケースを中心に」(「近代文学研究」を資料から考える勉強会Ⅱ、11月)、「芥川龍之介が編んだ英語副読本」(芥川龍之介シンポジウム、11月)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.研究発表及び研究ネットワークの構築:前年度までの科研プロジェクトによって構築した研究ネットワークを継続し、台湾・国立政治大学台湾文学研究所における国際シンポジウム「從帝國到冷戰的文化越境與生成」(11月)において研究発表を行い、台湾、韓国の専門家らと、農民文学運動及び東アジアにおけるアイルランド文学受容についての意見交換を行い、その成果を論文として発表した(ただし、この研究成果はさらなる検討が必要であり、今後個々の作品事例について、議論を重ね、論文を執筆し、問い続けていく必要がある)。 2.関連資料の調査と整理:山梨県立文学館における中村星湖スクラップブックの調査及び国立台湾大学における雑誌調査を行った。 3.研究成果の論文化と公開:学会・研究会での発表を7回行い、関連分野の研究者と継続的に討議を重ねた。日本ケルト学会、有島武郎研究会、日本イェイツ協会、東アジア古典演劇研究会、「近代文学研究」を資料から考える勉強会などの本研究課題に密接にかかわる研究会・学会のシンポジウム・研究会において研究成果を発表したことで、最新の知見を得、専門家らの質問や指摘を受けて、研究をたえず見直し、それを論文化することに努めた。当該研究課題に関連する論文2本を執筆(『イェイツ研究』『從帝國到冷戰的文化越境與生成』に掲載)した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. アイルランド文学と東アジアにおける受容について、農民文学と植民地表象の関わりに焦点を絞り、2018年度の研究発表及び調査の成果を論文として公表する。2つの学会誌の特集号から寄稿を慫慂されているため、その2本の論文のブラッシュアップに集中する。2016年度から始めたケルト学会機関誌における連載「日本文学とアイルランド」(年2回)に、資料発掘や新しい研究の視点の発表の場として取り組み、充実させる。 2. アイルランドにおける資料調査を行う。アイルランド、英国調査。Irish Agricultural Organization Society及びIrish Homestead, Irish Times, Irish Statesman等の新聞・雑誌の調査及び国際的な最新の研究動向を把握する。研究協力を得ながら昭和期における日本文学との相互交渉の調査及び木下順二関連調査を行う。 3. 日本におけるアイルランド文学受容を、中国、台湾、朝鮮における受容と比較する視点でさらに調査を行い国際学会等での研究発表を行う。国内での学会、研究会での研究発表を継続する。研究会を基盤とし、共著出版の準備を進める。
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Causes of Carryover |
(理由)2018年度にはイギリス・アイルランドにおける資料調査にかかる旅費を計上していたが、2017年3月に遂行した資料調査によって計画していた資料を収集することが出来た。さらに、2018年度は台湾の国際学会に招待されていたため、効率的に研究を推進するため、当初2019年度に予定していた台湾における資料調査を前倒して行った。2018年は台湾資料の整理・分析及び既に収集していたアイルランドや日本における資料との比較・検討に集中し、当初アイルランドへの旅費として計上していた金額との差額を2019年度に繰り越したため。 (使用計画)アイルランド・イギリスにおける農民文学運動関連等資料の調査・収集、国際学会における研究発表のための旅費として使用する。
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Research Products
(11 results)