2020 Fiscal Year Research-status Report
戦中戦後期農民文学の展開と変容の研究―アイルランド文学と東アジアとの関係を軸に
Project/Area Number |
18K00314
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 暁世 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (60432530)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 農民劇 / 英学史の再検討 / 国策文学 / アングロ・アイリッシュ文学 / プロパガンダ / 国家総動員体制 / 文学者像の流通と翻訳 / 戦時期における英語文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の農民文学とアングロ・アイリッシュ文学の関係について研究を継続し、1930年代後半から40年代前半において「アイルランド文芸復興運動」が、地方劇運動の指針として目されることに加え、総動員体制下における民衆の国民化をめぐって構築された文学の戦時的役割に関するナラティブに組み入れられていった経緯と要因とを検証した。その結果、イェイツが帝国日本のナショナリズムと日本回帰論の文脈で語られ、アイルランド文学史を学ぶことは「日本人の文学奉公の一助」となるという言説が出現するなど、総動員体制下の日本においてアングロ・アイリッシュ文学が文学の国策への奉仕へと接続されるという捩じれが見られることを明らかにした。これらの議論を通して、アングロ・アイリッシュ文学が、太平洋戦争中に反英的性格を持つ「英語文学」として認識・享受されていたという特異な様相をうきぼりにし、イギリス・アメリカ文学中心の従来の日本英学史研究への新たな枠組を提示した。主な研究実績は以下の通りである。 1)学術論文:学術論文「戦間・戦時期日本におけるアイルランド文学の受容とナショナリズム 農民文学運動とW.B.イェイツ表象の変容」(2020)及び共著2冊の原稿。 2)研究会の立ち上げとシンポジウム開催:日本文学、英文学、比較文学、美学等の関連領域研究者6名と「近代日本文化とアイルランド研究会」を立ち上げ第1回研究会を実施、シンポジウム「越境する美術、変容する文化」を開催した。 3)研究発表:「戦時下日本の国策とアイルランド文学 ―「英学史」の再検討に向けて―」(2021)、「Women's Suffrage Movement or Japanese Propaganda? Performance of Japanese Drama in Early 20th Century Britain」(2021)等研究発表を3回行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスによる海外渡航の制限により、予定していた英国・アイルランド、韓国における資料調査を中止せざるを得なくなった。したがって当初の研究計画を可能な限り継続すると共に、広く近代日本におけるアイルランド農民文学の受容と享受という問題に焦点をあてる研究計画に軌道修正した。新たに戦中・戦後期を中心としたアイルランド文学・文化と日本との関係を問題とする「近代日本文化とアイルランド研究会」を立ち上げ、意見交換を行い、2月に研究成果報告会を開催した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度も新型コロナウィルスの影響による海外渡航の制限により、英国・アイルランド、韓国における資料調査は難しいことが予想される。したがって、可能な限り従来の研究計画を継続しつつ、新たな視点として戦中・戦後日本におけるアイルランド認識と国策との関係についての研究を推進する。この研究はアメリカ、イギリス中心の従来の英学史研究を再考することにつながり、アングロ・アイリッシュ文学のような英語で書かれた文学の日本における認識の特殊性や時代的変容を明らかにすることが見込まれる。具体的には以下の3点に集約される。 1.山梨県立文学館所蔵中村星湖スクラップブック、国立台湾大学において調査・収集した旧台湾帝国大学時代の雑誌、台湾におけるアイルランド文学受容及び農民文学受容の関わりを示す資料について整理・考察を継続して実施する。関連して日本の英学史におけるアングロ・アイリッシュ文学の特殊性について、より詳細な検討を行う。 2.研究会での議論を積み重ね、研究協力を得ながら日本文学とアイルランド文学・文化の交渉に関わる研究を行う。研究会は2回程度実施し、12月に関連シンポジウムを実施する予定である。さらに、日本アイルランド協会の今年度公開講座の特集「日本の作家とアイルランド」等での講演(2回)を通して広く一般にも公表する。 3.上記の研究成果を学術論文として執筆する。アイルランド文学、英文学と日本文学の影響関係に関する関連学会・研究会による共著の準備を行う。
|
Causes of Carryover |
今年度の研究計画として旅費(海外)を計上していたが、新型コロナウィルスの影響で出張が不可能となったため、研究計画を見直し、戦時下におけるアングロ・アイリッシュ文学の受容とナショナリズムの関係に焦点をあて日本の英学史において検討が不十分であった旧植民地において英語で書かれた文学作品の受容の実態を調査とする国内調査に切り替えた。そのため差額分の残額が生じた。 学会・研究会に研究者を招聘する謝金・人件費を計上していたが、2021年1月及び2月に開催したシンポジウム「越境する美術、変容する文化」及び研究会「近代日本文化とアイルランド」いずれもオンラインでの開催となったため差額分の残額が生じた。 旅費(海外)を用いた資料調査は翌年度に実施する予定である。ただし来年度も新型コロナウィルスによる渡航制限が持続する場合、今年度のように戦時下の日本におけるアングロ・アイリッシュ文学受容とナショナリズムの関係についての研究を続行し国内調査に切り替える。謝金・人件費については、来年度に研究会2回程度及びシンポジウムの開催を計画している。
|
Research Products
(4 results)