2022 Fiscal Year Research-status Report
戦中戦後期農民文学の展開と変容の研究―アイルランド文学と東アジアとの関係を軸に
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18K00314
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 暁世 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 准教授 (60432530)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 比較文学 / 近代演劇 / 農民 / ケルト / ナショナリズム / ノスタルジー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、戦中戦後期の日本文学におけるナショナリズムの様相に関して、農村表象に着目してアイルランド文学の日本における受容とその意味付けの変容を検討することで、実証的に明らかにした。研究実績は以下の点に集約される。 (1)明治期から現代に至る日本におけるアイルランド文学の翻訳・受容の様相を通時的に検討し、アイルランドの文化とそれと関わって論じられた〈ケルト〉という概念が、日本文化とそれを生み出す日本人の特殊性を主張する媒介物として用いられた日本=ケルト類似論を検討した。そして、そのように想像/創造されたドメスティックな〈ケルト〉イメージが、固定化、継承、流布というプロセスを辿って、日本における農村・農民像、地方表象、ノスタルジーと結び付けられ、〈ケルト〉のステレオタイプを形成した経緯を分析した。(2)前項の研究を基に、戦後にジョン・ミリントン・シングらアイルランドの戯曲を翻訳し、紀行文や演劇論を執筆した木下順二の演劇論や戯曲作品に着目し、戯曲『東の国にて』(1959)等を検討することにより、戦後日本におけるアイルランド文学の受容を、貫戦期的視点から考察した。(3)前二項を基に、広く近代日本における英語文学の受容について研究した。 主な研究実績は以下の通りである。 1)共著書: Ireland-Japan Connections and Crossings (Cork University Press, Atrium, 2022) 、『怪異とミステリ』(青弓社、2022)を刊行した。 2)シンポジウム開催:阪大比較文学会との共催でシンポジウム「戦中戦後東アジアの文芸空間の諸相をめぐって」(2023年1月)を開催した。 3)口頭発表:同シンポジウムにて「ナショナリズムとノスタルジー――戦後日本における「ケルト」受容再考」(2023年1月)を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
世界的な新型コロナウィルスのパンデミック状況により、英国・アイルランドにおける資料調査を延期した。しかし、その一方で日本国内の資料の調査・収集を進め、本研究課題の目指す明治期から現代日本までの農民表象と海外文学受容との関連に関する通時的な研究に注力した。具体的には、木下順二におけるアイルランド文学享受の様相と、木下がそれをどのように演劇論及び戯曲に生かしていったのかに焦点をあてる研究へと軌道修正した。戦中戦後東アジアの文芸空間の諸相を問うシンポジウムを開催し、日本のみならず中国や台湾における事例を検討・意見交換を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究を継続しつつ、近代日本におけるアイルランド認識と国策との関係についての研究を推進する。具体的には、1910年代からの〈ケルト〉イメージの生成とその再生産、及び、1980年代の〈ケルト〉ブームに象徴されるケルトのドメスティック化についての研究を推進する。日本近現代文学史におけるケルトへの関心とその利用の背景には、人種・民族に固有の「国文学」を求めた日本文学史観の問題が存在していることが明らかになるのではないだろうか。研究会での議論を積み重ね、研究協力を得ながら日本文学とアイルランド文学・文化の交渉に関わる研究を行う。12月あるいは1月に関連シンポジウムを実施する。
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Causes of Carryover |
COVOD-19の影響により2022年に計画していた英国・アイルランドにおける資料収集及び調査を次年度に延期することとしたため海外旅費の次年度使用額が生じた。また、シンポジウムを勤務校である大阪大学にてハイブリッド配信の形で実施したため、計上していた分の国内旅費の使用額が生じず、次年度使用額が生じた。 次年度にこれらの資料収集と調査、その成果発表を行うこととし、場合によっては研究会をウェッブカンファレンスとして開催することを検討する。
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Research Products
(3 results)