2019 Fiscal Year Research-status Report
Gender and sexuality in cultural activism of leftist movements in the years around 1930
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18K00316
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
飯田 祐子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (80278803)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中谷 いずみ 二松學舍大學, 文学部, 准教授 (10366544)
笹尾 佳代 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (60567551)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジェンダー / セクシュアリティ / 左翼文化 / プロレタリア文学 / 1930年前後 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019度は、3回の研究会を開催し、個別の研究課題について検討を重ねた(第4回研究会:2019.7.7、第5回研究会:2919.11.10、第5回研究会:2019.12.1、いずれも於名古屋大学)。 第一の課題としている「運動の主体形成におけるジェンダー」については、運動の論理とジェンダー化の論理がいかに連動しているかという観点から、とくにプロレタリア文学においてブルジョア・ジャーナリズムとの緊張関係から、「金」の問題が否定的に扱われる傾向があることを検証するとともに、その論理におけるジェンダー化の関係性について検討を進めた。誰がいかなる形で「金」の供給者になるかという問題が、運動の主体形成と関わるという仮説の検証を進めた。 第二の課題としている「社会運動組織の生成と階層性とジェンダー化」については、ハウス・キーパー問題を主として検討を重ねた。活動家の証言・伝記・自伝に示された事実を整理し、政治的背景と当時のメディア言説について検証を行い、またさまざまな事例について整理を行い、運動の変容によって位置付けが変化することを解明した。 第三の課題としている「社会運動のナラティブにおけるジェンダーとセクシュアリティのナラティブの混淆」については、主としてプロレタリア女性作家の作品を分析することで検証を進めている。従来あまり検証されていない作品を抽出し、ブルジョア文学的プロットとプロレタリア文学の問題系との関係性の検討を行った。また媒体の問題として『働く婦人』『泉の花』を対象に検討を行った。プロレタリア女性雑誌は、プルジョア女性雑誌に対して対抗的な立場を明示しているが、同時に、ブルジョア女性雑誌が生産してきた読者共同体の装置などについては、積極的取り入れを行っており、それによるナラティブの混淆を検討した。また、飯田・中谷・笹尾共編で『女性と闘争』(青土社)を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が掲げた三つの課題について、それぞれに具体的な検討を進めることができた。とくに2018年度の検証によって提示した二つの観点を加え、研究を進めた。 第一は、公私の領域のジェンダー化を考えるにあたり、内部と外部の構成的な配置を捉えるという観点である。2019年度は、飯田祐子が、「金」という抽象的な要素を語る具体的なレトリックのジェンダー化について検証した。その動的な関係性を明らかにすることで、一件ジェンダーとは無関係の「階級」の論理がジェンダーの論理との連動の様相が、明らかになりつつある。本研究の現時点での報告をAAS2020(Boston)にてパネル発表の一部として行うことが決定していたが、学会が新型コロナウィルス感染拡大のためにキャンセルになったため、2020年度に国内で報告する予定である。 第二は、左翼運動の中の多数性とその関係性についての積極的検討という観点である。具体的にはマルクス主義系運動とアナキズム系運動との関係性を2019年度の課題としていたが、この点については中谷いずみが伊藤野枝を素材にアナキズムと女性解放の論理の関わりを考察し、女性の分断という論点を提示した。またハウス・キーパー問題についても整理を試み、運動の構成における多数性と異性愛装置との関わりの検証を進めた。この点に関しては、2019年度より研究協力を依頼した池田啓悟(立命館大学非常勤)が、さらなる検証を進めている。 笹尾佳代は、廃娼運動とプロレタリア運動との関わりに注目し、プロレタリア文学作品に表された娼婦表象の分析を行い、社会運動の文化実践の内部と外部の構成について現在考察を進めている。 また飯田・中谷・笹尾共編著『女性と闘争:雑誌「女人芸術」と一九三〇年前後の文化生産』(青土社)を刊行した。 総じて、具体的な論点を通して、多角的に検証を進めており、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
完成年度となる2020年度は、個別に検討してきた論点を、以下のように再配置し、各論の統合を行う。運動における内部と外部、中心と周縁、また階層化の問題におけるジェンダー化の考察に結論を見出す。 第一の課題「運動の主体形成におけるジェンダー」については、少女表象の問題と、娼婦表象の問題等の検討を中心に総括する。いずれの問題系においても、プロレタリア文学の外部との重なりと差異を確認することができる。ジェンダーの論理を階級の論理によって再構築するなかで、プロレタリア文化を担う主体が形成されていく過程を明らかにする。(笹尾) 第二の課題「社会運動組織の生成と階層性とジェンダー化」については、ハウス・キーパー問題を具体的事例として検証を進めてきた。ジェンダーやセクシュアリティの論理が、運動の中心と周縁を形成する際に機能することを明らかにする。(中谷) 第三の課題「運動のナラティブにおけるジェンダーとセクシュアリティのナラティブの混淆」については、プロレタリア文学におけるブルジョア出版が構成してきた家族プロットや異性愛プロットの混入について問い、また、「金」の配置とジェンダー化の関係を、プロレタリア文学とブルジョア出版との緊張という観点から考察する。「階級」を最重要視するプロレタリア文化運動に組み込まれたジェンダーの論理を明らかにしていく。(飯田) 以上の分析を進めつつ、研究成果報告を積極的に行う。日本近代文学会2020年度秋季大会では、飯田、笹尾、および2019年度より研究協力を依頼してきた池田啓悟(立命館大学非常勤)、鳥木圭太(立命館大学助教)の四名にて、パネル発表「プロレタリア文化運動とジェンダー」を行うことを企図している。また現在、飯田・笹尾・中谷の三名によって、プロレタリア文化を担う女性主体を論じるパネルを用意しており、国際研究集会での報告を検討中である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、2020年3月に計画していた研究会およびゲスト・トークが延期となった。また、飯田は、AAS2020(Boston)に参加し、パネル“Gender and the Proletariat in Transwar Japan”において、“Outside Prison: Proletarian Literature and the Family”の報告を行う予定であったが、学会が同様の理由でキャンセルになり、旅費および発表原稿のネイティブ・チェック費用等が、未使用となった。2020年度、国内学会および国外国際研究集会にてパネル発表を行う費用として使用する予定である。
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Research Products
(7 results)