2019 Fiscal Year Research-status Report
「帝国日本形成の物語」(西南・日清・日露各戦争の記憶)の成立に関する調査・研究
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18K00317
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (90324889)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 記憶 / 満洲 / 死者 / 植民地 / 英霊言説 |
Outline of Annual Research Achievements |
6月1日、大阪府泉佐野泉南医師会学術講演会「近代日本の医学と文学」を行い、日露戦争期の森鴎外の医学が政治に従属し、文学が政治の許容範囲に用心深く囲い込まれていたことに批判的に言及、さらに遠藤周作『海と毒薬』が、日中戦争・太平洋戦争時期における政治(軍事)と医学の関係性を可視化しようとしたさまを分析した。また、関連して、医師出身の後藤新平の台湾統治初期における衛生学言説と匪賊虐殺の関係についても探究したが、この点についてはまだ充分な知見には到達しておらず、発表は見送った。同じく6月8日、第43回地中海学会で招待講演「Contact Zoneとしての海港都市-神戸の1940年代小説を中心に-」を行い、近代の海港都市神戸を舞台に展開した近代の文学史に見られるコロニアルな性格について紹介・分析した。 7月7日、神戸大学・北京外国語大学第4回国際共同研究拠点シンポジウムで、「「平成史」への欲望と移民」というテーマで、戦前の東アジアの地政学的な記憶に規定される現在の状況に言及した。2020年1月25日、AALA(アジア・アメリカ文学学会)1月例会で「海港都市神戸と移民文学の系譜」というタイトルで講演し、陳舜臣の小説『天球は翔ける』が、近代東アジア史を「移民」としての華人の視点から語りなおそうとする試みであることを論じた。 7月、論文「転生する太平記-近世太平記を中心に-」発表し、14世紀の転形期を対象とする歴史文学である『太平記』の物語構造が幕末明治史を語る『近世太平記』に転生していること、『太平記』の後半部と異なり『近世太平記』の後半部はアジア侵略を肯定的に語っており、後のアジア主義との差異とは異なるものであると同時に、満州事変を支えた英霊言説に共通するナショナリズムを抱え込んでいることを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの世界的流行により、2019年度3月に予定していた台湾・中国調査が実現不可能になった。
海外での調査が可能になる時期が不透明である中、国内でも可能な作業として、現在、1931年の満州事変勃発以前における満洲に関する諸言説の収集作業を進めている。その中で、満州事変当時喧伝された「二十万の英霊」言説の消長とその原因等について分析を深めていく予定である。 特に、第一次世界大戦の翌1919年の中国における五四運動、朝鮮半島における三一独立運動、またシベリア出兵の失敗、さらにワシントン体制の確立等により、従来の帝国主義的路線の転換を迫られていたこととの関係性、他方経済恐慌の結果として、満州に対する期待が高まっていく情勢等を注視しつつ調査を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度においても新型コロナウイルスの世界的流行はまだ収束しておらず、収束する時期も不透明であるので、国内でできることから着手する予定である。 具体的には、第一次大戦終結前後以降1931年の満州事変に至る時期の満洲言説を中心に文献収集を行う。特に、第一次世界大戦の翌1919年の中国における五四運動、朝鮮半島における三一独立運動、またシベリア出兵の失敗、さらにワシントン体制の確立等により、従来の帝国主義的路線の転換を迫られていたこととの関係性、他方経済恐慌の結果として、満州に対する期待が高まっていく情勢等を注視しつつ調査を進める予定である。中でも、のちに満洲事変・日中戦争へと突き進んでいく状況下で主導的役割を果たした関東軍の中堅将校とその周囲のアジア主義者たちの言説は集中的に収集・分析したい。 海外渡航が可能になった暁には、昨年度に延期を余儀なくされた台湾・中国(北京・大連・瀋陽・ハルビン等)への資料収集調査を実施する。台湾においては、中華民国及び国民党サイドの1920年代資料、および現代の1920年代史の研究成果を収集する。中国においては近年における1920年代満洲についての語られ方、張作霖・張学良父子やその日本人顧問等に関する文献を収集する。余裕があれば韓国においても、1920年代に満洲との国境地帯で展開された、間島パルチザンの歴史に関する資料と研究成果を収集することを目指す。
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Research Products
(5 results)