2021 Fiscal Year Research-status Report
「帝国日本形成の物語」(西南・日清・日露各戦争の記憶)の成立に関する調査・研究
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18K00317
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (90324889)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 記憶 / 物語 / 死者 / 植民地 / 対抗的語り |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、コロナ禍の影響で海外での資料調査等は実施できなかったため、すでに収集済みの資料を読み込み、分析することに精力を費やした。
学術論文としては、西南戦争に際会した環不知火海地域の民衆の生活史について書かれた、石牟礼道子『西南役伝説』を分析し、その結果について論文執筆を行った。その成果は「 『西南役伝説』における民衆史的歴史語りの試みと非定住民への志向性について」というタイトルの論文として、2022年度に刊行される論文集『石牟礼道子の<古典>を読む』に収載される予定である。西南戦争の記憶に関する物語化には、当時の官軍(明治政府)側の語りと、賊軍(西郷軍)側に同情的なアジア主義者・国権主義者の語り(たとえば黒龍会編『西南記伝』等)が存在するが、石牟礼道子の当該著作は、その二者のいずれにも属さない民衆的な語りに照射することを目指したもので、特に「かんじん」と呼ばれた非定住民の存在を重視したことは特筆されるべき事柄であると思われる。また、目前の西南戦争の状況を説明するに際し、『平家物語』のヴァリエーションである瞽女唄の「一の谷」や、歌舞伎の「佐倉義民伝」ものが想起されるパターンが存在しえたことを発見することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の影響で、海外での資料調査はもちろん、国内における調査も充分には行えなかった。2022年度もコロナ禍の影響は存続することが想定されるので、限られた機会を有効に活用できるよう、戦略的な調査計画を考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は本科研研究計画の最終年度であるので、残された資料収集の機会は最大限活用すると同時に、すでに収集済みの資料に関する分析と、研究成果の公開に注力する。
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