2022 Fiscal Year Research-status Report
「帝国日本形成の物語」(西南・日清・日露各戦争の記憶)の成立に関する調査・研究
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18K00317
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (90324889)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 西南戦争 / 女性 / 非定住 / 記憶 / 物語化 / 鎮魂 / 芸能 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、『石牟礼道子と<古典>の水脈』(文学通信、2023年5月)に掲載した学術論文「『西南役伝説』における民衆史的歴史語りと非定住民の記憶」を完成させた。 本論文は1877年の西南戦争に際会した環不知火海地域の民衆の生活史について書かれた、石牟礼道子『西南役伝説』を分析したものである。本書全体の趣旨は、作家・石牟礼道子野創造性の源泉の一つに<古典>の享受体験があるとの前提により、その内実を広く深く探究したい、というものである。 本論文では石牟礼道子の中期の著作である『西南役伝説』を題材に、前近代日本でカノンとされた漢詩文や和歌、王朝物語の影響はほとんど見られないこと、民衆的な語り物文芸の『葛の葉』や『一の谷」等についてはかなり摂取していること、そしてそれはおおむね差別された非定住民の芸能的要素が強いことを強調した。 その他、本年度は帝国形成の歴史的事件(日清戦争、日露戦争等)に関わる物語化のプロセスにおける女性視点の文学作品や諸言説の役割に注目し、資料収集と分析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度以降、3年間におよぶコロナ禍の影響で、当初予定していた海外調査が充分にできなかったことは残念であった。しかしながら可能な範囲で資料調査を行い、論文執筆等を通じて一定の成果を挙げることはできたと考えている。特に、いわゆる「銃後」に位置する複数階層の女性視点のナラティヴのはらむ重要性について、一定の見識を得ることができたと認識している。 この点は、一方では補助事業延長期間である今年度(2023年度)における研究成果のとりまとめにつながり、他方では今年度あらたに採択された基盤研究(C)「日中戦争・アジア太平洋戦争に関する女性視点のナラティヴの諸相についての調査・研究」における研究活動において継続・発展させていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降のコロナ禍の影響で充分な海外調査ができなかったことに鑑み、補助期間を一年間延長し、2023年度のあいだに台湾等における海外調査を実施し、その成果を公表する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で実現できなかった資料調査の一部を次年度(2023年度)に実施するため。台湾または韓国への資料調査を計画している。
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