2019 Fiscal Year Research-status Report
タイ・〈仏印〉を描いた日本の〈戦後文学〉に関する分析研究
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18K00319
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
久保田 裕子 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30262356)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | タイ / 仏印 / 三島由紀夫 / 戦後文学 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、〈戦後文学〉を対象とした小説などの文字テキストに加え、三島由紀夫の映画などの視覚表象について、新聞・雑誌記事などの同時代言説と関連させて分析した。その成果発表の一環として、「第3回三島由紀夫とアダプテーション研究会」を企画・運営した。映画監督吉田大八氏の講演記録について、「講演 映画『美しい星』の世界―制作の現場から-」講師・吉田大八、司会・有元伸子、久保田裕子(「三島由紀夫研究⑳『豊饒の海』の時代」2020.5)を活字化して構成・編集を行い、公表する活動を行った。 2、三島由紀夫研究において、テキストをアジアから見る視点を導入した異文化表象の分析として、学術論文「 三島由紀夫『春の雪』におけるシャム王室と留学制度」(『三島由紀夫研究』⑲、2019年5月)を発表した。 3、1960年代後半の三島の海外踏査と、同時代の総理大臣佐藤栄作の東南アジア渡航について考察し、日本とアジアの間にあるアメリカとの三国間の問題について考察するために、三島の「文化防衛論」と佐藤の主席補佐官楠田實の日記の記述とを比較検討した研究発表「アジアの向こうのアメリカ―『楠田實日記』の中の三島由紀夫と佐藤栄作―」(日本社会文学会関東甲信越ブロック12月例会、2019年12月15日、明治大学駿河台キャンパス)を行った。 4、〈外地〉と呼ばれた樺太を描いた吉田知子、仏印での戦争経験のある男性との恋愛を描いた『氷点』を描いた原田康子などの女性作家研究の成果として、『[新編]日本女性文学全集』(第9巻、共著、2019年6月、六花出版)の「解題、略年譜、参考文献」を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
太平洋戦争期まで日本においてタイ〈泰〉・〈仏印〉は地政学的に結び付けられてきたが、〈大東亜共栄圏〉時代、1960年代以後の高度経済成長期、1980年代以降のツーリズムの時代から現在まで、文学テキストにおいて表象されてきたが、本研究において、研究の基礎となる資料を収集し、新聞・雑誌記事などの日本語の同時代言説と関連させつつ分析した。太平洋戦争の戦中・戦後にアジア地域を訪れた作家の中で、三島由紀夫はタイ・ラオス・カンボジアを舞台とした作品を残しているが、特に三島とアジアについての問題を考察することで、〈戦後文学〉における異文化表象の問題について、小説テキストの中のアジアのイメージの構築と流布の経緯について調査を行った。コロナウイルスの影響もあったが、当初の計画通り、以下の研究を遂行することができた。 1、タイ・〈仏印〉に関連するテキストの調査・収集を国会図書館や日本国内の大学図書館等で実施した。主に日本文学テキストについて、表象分析の基盤となる資料収集作業を行った。2020年3月以降、コロナウイルスへの対応から、図書館の利用などの制限があったが、当初の研究計画を予定通り遂行することができた。それらの資料を踏まえて、共著1、学術論文1、三島由紀夫とアダプテーション研究会において企画・運営した映画監督吉田大八氏の講演についての記録1、研究会発表1件を発表した。 2、日本・タイにおいて実施した国際的な学術的調査・研究協力の一環として、連携研究者のナムティップ・メータセート(チュラーロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座准教授)と国際研究者交流を行った。パネル発表「アダプテーションが際立たせたもの」を企画・運営し、メータセートが、「タイにおける「羅生門」の受容とアダプテーション」(第4回「三島由紀夫とアダプテーション研究会」2019年12月9日、広島大学東千田キャンパス)を公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度における研究推進方策としては、以下の点を計画している。 1、2020年4月~7月…日本で刊行されたタイ・〈仏印〉に関する図書・雑誌などの日本語資料の調査・収集と分析を引き続き行う。 2、2020年8月…タイで刊行された図書・雑誌などの日本語資料の調査・収集の予定であったが、コロナウイルスの関係で海外渡航は困難であると判断する。そこで日本国内で利用できる資料などを購入し、調査することで計画の変更に対応する。 3、2020年9月~2021年3月…調査・収集した日本文学テキストと日本・タイで刊行された日本語の同時代言説の資料を照合・分析を行う。三島は1960年代にインドシナ半島を舞台にした小説・評論・戯曲を執筆しているが、テキストの舞台となった時代は、太平洋戦争後の時代を背景としているだけではなく、そこには戦争期・戦前と戦後の時代との継承と断絶という課題を描いている。三島は日本の旧植民地であった東アジアではなく、インドシナ半島を舞台としたテキストを発表しており、その点で、他の作家とは異なっている。三島とアジアの問題について考察する上で、太平洋戦前期の〈南洋〉と呼ばれた場所における、戦争・戦後の接合と断絶という課題がある。三島の課題を同時代の社会的言説、特に「文化防衛論」の背景となった同時代の社会的状況と合わせて考察するために、図書・資料を入手して分析し、考察する予定である。 4、1~3の成果について、研究代表者・連携研究者による共同討議と研究成果を学会・論文として発表する予定であるが、コロナウイルスへの対応の必要性から、当初の計画とは異なり、日本国内における成果発表を中心に遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)2019年度の研究計画に従い、研究を遂行したが、その過程で生じた予算執行金額は、図書費などがやや少なかったためである。計画的な資料購入のために、2020年度に有効に活用することにした。 (使用計画)2020年度は、前年度の余剰があった金額について、当初の執行予定金額に図書購入を加えた費用に充てる予定である。執行予定金額が増加することによって、本研究の遂行にあたって必要な図書や資料を購入することが可能になり、予算を有効に活用することができる。
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Research Products
(4 results)