2021 Fiscal Year Research-status Report
書籍広告を資料とした近世・近代移行期の書籍流通についての研究
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18K00328
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 俊幸 中央大学, 文学部, 教授 (00216417)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 書籍文化史 / 新聞広告 / 書籍安売り / 新聞売捌店 / 書籍流通 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究に関わって2021年度中に公表した論文は次のとおりである。まず、藤本幸夫編『書物・印刷・本屋―日中韓をめぐる本の文化史』(2021年6月、勉誠出版)に、「上方の草紙類をめぐって」と「本屋と出版―江戸時代における書籍文化の特質」の二編の論考を掲載した。前者は、これまでほとんど調査・研究が進んでこなかった京都・大坂の草紙文化の特質を江戸のそれと対比して浮き彫りにするという切り口のものであるが、江戸時代における草紙全般に及んでその文化史的意義を論じたものとなっている。後者は、主として江戸時代後期における民間の学問志向と、それに応じて、またその市場をより広げていこうとする書籍制作・流通機構との相関を論じたものである。また、「小学校令期東山梨郡における教科書類の流通」を『書物・出版と社会変容』27号(同年10月発行)に掲載した。これは、僻村の戸長役場が作成した小学校運営に関わる文書を用いて、明治期における書籍流通網の整備状況を捉えた事例研究である。中央大学文学部紀要『言語・文学・文化』(2022年2月発行)に掲載した「兎屋の書籍出張販売」は、これまで蓄積してきた、地方紙の新聞広告を主たる史料として用い、兎屋書店の消長をたどりながら、兎屋が展開した地方出張販売という新たな書籍安売方法が書籍業界と享受者にもたらした時代的意義を追求したものである。 また、ゼミ学生と地方紙に盛んに書籍安売り広告を掲載した大阪の業者について共同研究し「《共同研究》大阪の書籍安売業者について考える」と題する論文にまとめ、『中央大学国文』65号(2022年3月発行)に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も、論文公表のかたわら、継続して基礎データの充実に努めた。すなわち、近世から近代前半期までの書店に関する情報の集積と整理、新聞・雑誌の流通に関わる情報の集積と整理、書籍安売りに関する新聞広告の収集とデータ化である。 2021年度も、前半期は特に、地方出張を実施しにくい状況が続いたため、各地の文書館等の所蔵史料の調査や現存する地方紙の悉皆的調査を予定通り進めることができなかった。それに替えて注力したのは、第一に国立国会図書館が所蔵する新聞のマイクロフィルムを精査することであった。対象とする期間のものはほぼ完遂し、すべての資料をデータ化し終えたものと思われる。第二に、古書店などから原紙そのものを購入して調査用史料として活用したが、これも書店の在庫状況の問題と資金の限界とがあり、得られたデータは十分なものではなかった。 しかし、今後地方調査が必要なところも、数ヶ所を残すのみというところまでこぎ着けており、新聞・雑誌売捌店のデータ、また書籍安売り広告のデータの蓄積も順調である。また、書店に関するデータもかなり充実してきており、次の研究につながる大きな基盤となりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
大きなところでは、愛知県の地方紙の調査がまだ済んでおらず、少なくともこれを完遂する必要がある。愛知県図書館および名古屋市鶴舞図書館の調査によって得られたデータを加えた上で、新聞・雑誌売捌店のデータ全体の整備に取り掛かる予定である。同様に書籍安売り広告のデータの整備を行い、書籍安売りに関わった書店についての情報を付加していく。同時に、これまで他地域で行った調査で取りこぼした資料の再調査を行い極力遺漏なきよう心掛けていく。また、古書市場等に出てくる当該研究に関わる資料については予算の許す限り極力購入し、データの増補を図ることとする。そして、今年度中にこれらのデータをPCで検索可能な電子媒体として当該分野の研究者等に提供し、これをもって当該研究の成果公表とする予定である。 また、この間成果の公表がやや滞っていた近世後期に関する研究について論文にまとめて公表する。内容は、地方における書籍流通状況の変化と享受者の一事例の紹介ということを予定している。
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Research Products
(5 results)