2019 Fiscal Year Research-status Report
1950-70年代における文化資源としての「文学」に関する研究
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18K00330
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山岸 郁子 日本大学, 経済学部, 教授 (90256785)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 文学館 / 文化資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
地方文学館(山梨県立文学館・高志の国文学館・宮沢賢治文学館・小川未明文学館・こおりやま文学の森記念館・松本清張文学館、徳田秋声記念館、室生犀星記念館、泉鏡花記念館)について収蔵資料と公開されている範囲の運営資料についての調査を行った。特に北九州市松本清張記念館では「これからの文学館のかたち」の提言、こおりやま文学の森記念館では企画の提言を行った。 2003年に制定・公布された「指定管理者制度」を一つの契機として、多くの文学館はかかるコストを意識せざるをえなくなる。この制度を選択していない文学館もまた、効率的運用やシステムの合理化が期待されているが、文学館同士のネットワークで展示企画を立て、資料の貸し借りをして、層の厚い企画を実現している。 特に現在「文豪」ブームがあり、作家自体への興味持つ人びと(特に若年層)が現れている。漫画・アニメあるいはゲームから「文豪」に興味をおぼえた人たちは、文学館へ足を運び、展示物を通してキャラクターの新たな一面を見出すといった、従来のオーセンティックな鑑賞法を身につけている人たちとは異なる受容方法をとっている可能性は高い。従来正統とされてきた鑑賞法というものは原稿、メディア、肉声、肖像、生活空間の復元など文学を確かに生きた人間の営為であったことを受容するよう展示によって誘導され身につけたものである。しかしキャラクターから眼差す文学世界というものは、我々が囚われている文芸・文学の鑑賞世界とは異なった世界像を感受する可能性があるといえ、そのような人びとは今後の文学館の利用者として期待できる。従来の作家論とは違うかたちで「作家」を捉え直す契機にもなるだろう。コラボレーションの成功を分析し、文学者をキャラクターとして捉えることによってすでに確立している制度や枠組みに揺さぶりをかけるとともに文学館に新しい可能性をもたらしてもいることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近代以降の「文学」や「文学者」を顕彰し、かつ研究機関として維持されている文学館がこの協議会に所属している。所属をしていない館も(むしろ所属をしない館のほうが)多く存在する。調査により明らかになったのは成立事情、目的、規模、性格(総合文学館か、個人文学館か)、財政的な裏づけ、研究機能の有無、専従の研究員や学芸員の有無、サービスも千差万別であり、協議会に所属し、対等に協力関係を結ぶのは困難なところもある一方、所属をするメリットがないと判断しているところもあった。 文学館協議会の当初の目的は人的ネットワークの構築ということもあるが、もう一つの目的は文学館相互館での巡回展や共同企画展の実施である。しかし、内実は所蔵資料が少ない文学館に対して多い文学館が資料を融通していることが明らかになった。例えば近代文学館は、1展300万円で所蔵資料をもとに企画・構成した展示パックを貸し出している 。「石川啄木」展や神奈川近代文学館と共同企画の「夏目漱石」展のような個人作家展、「愛の手紙」展や「文学・青春」展のようなテーマ展などのパックが用意されている。地方の文学館などが想定できる購入先であるが、どこも事業費が削られており、1展を分割して貸し出したり、200万円の中型パック、100万円の小型パックなどを企画・製作せざるを得ない状況なのである。人件費も真っ先に削減される対象となっているところが多く、協議会が育成しようとしている博物館学芸員でもなければ図書館司書でもない〈文学館学芸員〉も、正規職員としての研究員、学芸員としての採用は難しくなっていることも深刻な問題であることが明らかになった。 文学展示実施において資料の貸し出しの簡便な方法、来場者管理システムの共有化について、専門家の知識をあおぎながら現在提案事項をまとめている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
国土交通省は「多様な旅行者ニーズに対して、一律の規格の旅行商品ではそれらのニーズを満たすことは難しい、とし「多品種・小ロット」と言われる、きめの細かい旅行商品の提供を求めている。また、地域に根付いた「自然」「歴史・伝統」「産業」「生活文化」等、これまで旅行の対象として認識されなかった地域資源が新たな観光、旅行の目的とされることを奨励している。 地域の再生や活性化を生むために観光客をうまく取り込もうとしているところは多い。地域ならではの資源や文化を護り育てようとする取組みや、観光により 地域を活性化しようとする取組みの中で、地域ぐるみで新しい地域に密着した旅行商品の創出が問われているとして、国はテーマ性をもったニューツーリズムを推進している 。 文学館は来場者数を増加させるという目的もあり、「文豪」ものとのコラボレーションやアニメ等の巡礼地として企画展示し来場者を増やしている。調査によると「武者小路実篤記念館」、「菊池寛記念館」、金沢文化振興財団(「徳田秋聲記念館」・「泉鏡花記念館」・「室生犀星記念館」)、「小樽文学館」は『文豪とアルケミスト』とコラボレーションイベントを行っている。ゲームを通して文学史における系統が分かるようになっており、文壇的なエピソードや「文豪」同士の関係性を知ることでゲームに断片的に表れる「言葉」の意味が理解できる仕掛けにもなっている。よってゲームユーザーは作家についての情報をより知りたいという欲望を抱くようになるようである。 作風や立場は異なるが、実際には親交が深い文学者や、意外な接点を持つ文学者たちが交錯する風景を立体的に再現させ、作家の身体性を浮かび上がらせるという物語性をもって文学史を捉えさせるような魅力的なキュレーション方法とは何か、また検索可能なデジタルアーカイブ構築の可能性について専門家を交えながら引き続き調査・提案をする予定である。
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Causes of Carryover |
3月に調査出張(国内)とデータベース入力(業務委託)を予定していたが、コロナウィルス感染拡大による社会状況の変化により実施がかなわなかった。打ち合わせはすでに4月にオンラインで行っているので、3カ所の地方文学館の調査を移動が可能になり次第実施したい。その調査結果に基づいたデータの入力についても今年度中にフィードバックするために整備し文学館で使用可能なものとしたい。 また当初から計画していた入館者管理システムの文学館間での共有化の提言はコロナウィルス対策として喫緊の課題となった。入館者やスタッフの安全を守るための入館者管理、キャッシュレス決済、展示の方法、運用マニュアルの策定について具体的な提案ができるよう準備を進めるためそれぞれの文学館においてヒアリングを行う。調査方法については予めアンケートを行い、打ち合わせはオンラインを活用し、現地調査は短時間で簡潔に実施する。結果はシステム構築のための専門家を交え検討し、速やかに提案書としてまとめる予定である。入館者管理システムを構築するためのエンジニアや個人情報の管理のルール策定に関する実績を持つ研究者を専門家として想定している。 現在従来の文学館利用方法の認識を転換させねばならない状況にある中で、それぞれの館の運用実現可能性を把握しつつ横断的に知り得た情報を活用し、持続的な館の運営に寄与していきたい。
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Research Products
(3 results)