2021 Fiscal Year Research-status Report
1950-70年代における文化資源としての「文学」に関する研究
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18K00330
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山岸 郁子 日本大学, 経済学部, 教授 (90256785)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文学館 / 文化資源 / 日本近代文学 / 文学展示 / 作家研究 / 指定管理者制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
地域の文学館がどのように文化資源を活用しているのか踏査を行い、その土地において文芸ジャーナリズムやインフラ・システムがどのような意義(あるいは意味)を持つのかを確認するとともに、活用方法を再検討し、文学館へ提案するのが本研究の目的である。文化資源の活用や見せ方の提案を行うことにより、「地域」の再発見に繋がることを意識しながら作業をすすめた。また作成したデータベースは小中高に通う児童・生徒にとっての各種調べ学習ツールとしても活用可能である。来訪者や転入者にとってもその土地の魅力に触れる機会を増大させる効果をもつ。歴史や文化に関心を持つ人びとや、訪日外国人に対しても効果的にアピールできるようコンテンツを作成した。 1950-70年にかけて文学の市場価値、文化資本がどのように確立したのか。政治・経済の基盤をも視野に入れて、横断的に、また作家を絞り込み、個別的に検証を行なった。また図書館や文学館などの文化行政や文化事業について都市部のみならず諸地域にまでその現象を波及させていったのか、その実際について明らかにしていった。さらに諸地域で推進された産業振興策において観光資源として文学や文学者がどのように発見され貢献したのか、観光地というメディアを通じて文学作品や作家がどのように流通されたのか考察を行なった。観光地での消費は交通網の整備や読者の余暇の過ごし方の変質とも関わる問題であることが明らかになった。 さらに文学が教育・アカデミズムの場においてどのように扱われてきたのか、また文庫のあとがきや新聞に連載をもつようなある意味で文化的価値を決定する文芸批評家の存在とその役割についての検討を行い、多角的な視点からその実態を明らかにしてきた。特に作家と〈地域〉(ローカルとしての東京も含む)との関係を検証することによって、言論と表現の新たな諸相を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19(新型コロナウィルス感染症)感染拡大防止のため移動が制限され、地方の文学館への調査が困難な状況であった。よって最終年に予定していた既に調査を行った地域の文学館についての財務分析やヒヤリング事項の整理などを前倒しして行うことによってそれぞれの問題点を明らかにした。また調査機関の協力により、アンケート方式やオンラインでの調査に切り替えて研究を進めてきた。しかしながら現地での調査は本研究には必須であるために研究の進度は遅れている。 今後はCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)感染拡大防止のために入館者管理システムを導入するなど、施設の運営方針に関わるような変更(対策)を行っている館についても実態調査を行い、安心・安全を意識した施設のあり方について他の施設とも情報を共有し提案を行いたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に地方都市(富山・北九州・甲府・金沢)の文学館、京都府立図書館へ赴き、館の運営(現状)についてのヒアリング並びに収蔵資料について調査を行ない経営分析とデータ入力を進めていた。その後COVID-19(新型コロナウィルス感染症)感染拡大防止のため実地調査が叶わなかったが、今年度は当初の予定に立ち戻り調査を行いたい。 現在文学館は指定管理者制度、公益法人制度改革によって入館者数等の実績を問われるようになり、今後淘汰されていく施設も出かねない。文学館も時代に合ったキュレーションが必要となっている。本学研究成果をベースとした文化資源の活用の仕方を提案し、コンテンツとして活用することに対して文学研究のみならず観光案内・生涯教育・学校教育における調べ学習など広く利用価値のあるものにするために社会への波及効果を意識しながら調査を行いたい。 本研究開始時には想定していなかったことであるが、COVID-19(新型コロナウィルス感染症)はデジタルアーカイブの重要性を再認識する契機になった。そのためには恒常的なアーカイブを構築する必要がある、ではその原資をどのように捻出するのか、多くの文学館の現状からこのような問いをそれぞれの館で立てることはあまり現実的ではない。「国立国会デジタルコレクション」と「青空文庫」のデータを結びつけ、地元ゆかりの文学者の資料をまとめて利用できるような試みが始まっている。これを一つのモデルとしながら今後多様なプラットフォームを横断できる仕組みを作り、アクセシビリティを保障し、研究者や市民が協働で情報を蓄積する場所をどのように確保できるのか、その持続可能性について検討し、実現のための方途をさぐりたいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症の感染拡大防止のため2年間、主に地方図書館と文学館への国内出張を行なうことが不可能となったため、その分の使用額が生じた。 既に調査済みのデータベース構築用の情報機器を揃える(物品費 250,000円×2台、500,000円)。図書館・文学館調査(国内出張)が行えなかったため、2022年度に調査を集中して行う(国内地方図書館・文学館調査を6回行う。国内旅費100,000円×6回、600,000円。研究集会のための旅費50,000円×6人分、300,000円) また文学活動や人の動態(関係や移動)に着目し、伝記研究などで見過ごされてきた事象について調査をし今までに明らかになったこと、伝記的事実の確認と研究深化の可能性について、国際的な発信・交流の場である研究集会を開催し、記録を冊子として残す予定である(専門知識の提供者への謝金や設備費200,000円)。研究集会は、海外の日本文学・日本文化研究に関心をもつ人々からのアクセスもあると考えられるので、海外からの利用に供することができるように準備を進めるつもりである(その他100,000円)。具体的には英文要旨の作成ならびにネイティブチェックを考えている。
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