2018 Fiscal Year Research-status Report
大阪能楽会館蔵書解題目録の作成ならびに茂山千五郎家と青家のかかわり
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18K00339
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
関屋 俊彦 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (70125136)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大西家所蔵 / 大阪能楽会館 / 番外曲 / 拾菓抄 / 茂山千五郎家家紋 / 青家家紋 / 蔵書解題目録 |
Outline of Annual Research Achievements |
大阪きっての能楽名家大西家所蔵の大阪能楽会館は2017年でもって閉館された。その直前2016年12月24日に関西大学で行なった能楽フォーラムに大西智久氏と生田秀昭氏をお招きしたことをきっかけに、智久氏の御厚意で同家所蔵の蔵書を悉皆調査している。その間の事情については『ニューズレター』4号に「第27回能楽フォーラム」を始めとして、6号に「大阪能楽会館閉館」、7号に「大阪能楽会館蔵書整理」で紹介し、更に「大西家所蔵狂言資料について」をも著し、それらは一括して『なにわ大阪の「笑い」に関する調査と研究報告書』に再録された。 蔵書のほとんどが学会未紹介の資料で、西畑実氏が番外謡曲を『樟蔭国文学』に、それを受けて田中允氏が古典文庫に翻刻されたのが最初である。最近では大谷節子氏や高橋葉子氏による師匠筋の岩井家寄贈『あやはとり』(京都市立芸術大学)などの紹介がある。まず目についたのが『拾菓抄』であった。装丁からして室町時代のものに間違いない。伊藤正義氏が最晩年の仕事として宴曲とも早歌ともいわれた謡曲のルーツを手掛けていらっしゃった研究会のメンバーの一人岡田三津子氏に連絡し、これは既に大阪工業大学のホームページの紀要に共著として公開されている。 『紫明』43号は「龍」の特集号。それに短いものながら「竜と能楽」を書いた。茂山千五郎家の家紋がはっきりしないということを受けて青家の家紋を紹介するも、「鏡作大明神縁起」にあるように「三鱗」を用いることが正統のようであるが、三鱗だけでも14種類あるので依然決定するまでには至っていない由を指摘した。 そのほか六麓会・東西学術研究所・第1回生活文化サロンで「大西家能楽蔵書解題目録」作成を意識して「構想に至るまで」「作成の構想」「作成に向けて」を報告している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近々発刊される関西大学東西学術研究所の紀要には番外曲の一覧表を記した。中でも孝徳帝を唯一祀っている豊崎神社を素材としている俳人入江来布作詞・大西信久作曲の〈豊崎宮〉の発見があった。戦中から戦後にかけて新作された習作であるが、大西家の氏神に奉納するつもりで書かれたものである。少し手直しすれば現在でも通用する。宮司にはとても喜ばれているので実演に漕ぎつけたい。 特筆したいことは高野山増福院の大西閑雪等供養碑の確認がとれたことである。大西信久氏『初舞台七十年』に写真は掲載されていて高野山にあることはわかっていたのだが、ようやく手塚稔子氏を介して代表役員にお会いし確かめられ得た。奥の院の観世家のすぐ側、明智光秀の碑を目当てにするとよくわかる。 不思議な縁を感じているが古書目録に載っていた『謡曲十五徳』掛幅を入手した。「起居整威儀」以下「不貴交高位」までの謡の益するところ15を達筆で記している。閑雪(朱角印)書とあるので大西閑雪の書に間違いない。また、乙卯とあるので、これは大正4年にあたる。翌年、閑雪が77歳でなくなる前年のことである。為川村氏とある川村氏が誰であるのか調査中である。また、北岸祐吉氏の写真・ネガをこれも古書目録から入手することが出来た。実は、それ以前に「故北岸祐吉氏能楽写真について」(『かんのう』平成4年10月)として報告したこともある。今でも能舞台の撮影は厳しく制限されているが、朝日新聞記者でもあった氏は特別に許されていた方であった。特に今回の分は大阪能楽会館での写真も含まれている。当時のこととて小さい写真で誰が演じているのか判断する機会は今をおいてないと思っている。 肝心の大西家蔵書整理であるが、会館閉館時に蔵と呼ばれていたものも撤去され、残した資料をどう拝見するか困っていたが、智久氏の御配慮で自宅に送ってもらえた。大箱2箱程だが精査が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
『大西家能楽蔵書解題目録』を作成中だが、大箱1箱を残し、既にA4で200頁、14万字を超えている。『鴻山文蔵能楽資料解題』(法政大学能楽研究所)を目標としているが、元のものが決して整然と整理されてきた訳ではないので、どうしても分類や用語に不統一が生じている。既に返却しているものと照らし合わせる再確認の作業も必要となってくる。それと大西閑雪が大変な知識人であり、生田秀とのかかわりからアサヒビールを始めとした財界との交流や当時日本一を誇った大阪能楽殿を建立した手塚亮太郎との比較、更には能楽以外の漢籍や『拾菓抄』・和歌、寄贈された絵画もある。能楽だけにこだわらない書名とすべきかと考えている。 最近、高橋葉子氏「『謡曲秘伝書』と常磐会謡本」(武蔵野大学『能楽資料センター紀要』2018を読んだ。常磐会本とは大西閑雪と亮太郎が発行した謡本のことであるが、岩井直恒の考案した十段論法といい、同本の性格を的確に指摘されている。私の方法は文献・書誌を中心としているが、音楽面には苦慮している。謡本だけでは判然としない箇所が実際の能舞台を見ることでわかることも多いので出来るだけ能楽堂に赴くようにはしているが、それでも要領を得ないことも多い。音楽面に堪能な方の協力を得なければならないかとも考えている。 『能舞台の世界』(勉誠出版・2018年3月)は大阪能楽会館の最後の写真である。プロの写真家今駒清則氏が撮影されたものであるが、氏にお願いして解体される前の会館内部の様子を撮影してもらっている。解題目録の課題以外に別にまとまったものを『ありし日の大阪能楽会館』(仮題)として出せるに越したことはないと考えている。 青家の鏡資料も手つかずのままである。三種の神器のひとつである鏡研究者が出てくれば紹介したい。また、ここに至って大蔵弥右衛門家文書研究の再開も見込める状況になりつつある。
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Research Products
(8 results)