2019 Fiscal Year Research-status Report
日本占領地における中国知識人の「抵抗」と「協力」の交錯――女性作家・梅娘を中心に
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18K00346
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
羽田 朝子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (90581306)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 梅娘 / 日本占領地 / 『中国文学』 / 公共圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本占領地における中国知識人の「抵抗」と「協力」が交錯する精神について検討し、とくに日本占領下の北京で活躍した女性作家・梅娘の文学に着目し、その複雑で矛盾に満ちた精神を読み解くものである。とくに梅娘の言論や文学に表出された近代性と民族主義の相克、戦前・戦後のテーマの連続性について着目する。 当該年度は、日本占領下の北京で発行された文藝雑誌『中国文学』の公共圏と梅娘の長篇小説「小婦人」について検討を行った。従来の研究では、『中国文学』は日本の国策宣伝を色濃く反映したものとして見なされてきた。これに対し本研究では、『中国文学』には当時の北京文壇の若手文学者が集まっており、その掲載論文からは、彼らが日本占領下で文化的危機感を強め、自分たちを中心とする言論空間を形成して、中国知識人としての独自性や文化の場を守ろうとする動きがあったことを明らかにした。そして梅娘の「小婦人」はこうした『中国文学』の言論空間で連載されており、そこには占領下におかれた中国知識人の日本と中国との間で葛藤する心理や自尊心を取り戻す姿が描かれており、『中国文学』同人たちの精神が反映されていたことを指摘した。 また戦前・戦後の梅娘作品におけるテーマの連続性について検討し、とくに梅娘の女性観にみえる戦前戦後の連続性について考察を行った。これにより、梅娘は戦前の占領下において日本女性をモデルにした良妻賢母主義や近代的主婦像を支持していたが、戦後1950年代に発表された作品にもその女性観が引き継がれたことを明らかにした。 当該年度の研究成果としては、『中国文学』の公共圏と梅娘の「小婦人」に関して国際シンポジウムで発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、予定していた『中国文学』の公共圏と梅娘「小婦人」について分析を進め、当該年度の目的であった日本占領下における中国知識人の主体性をめぐる複雑な精神について明らかにすることができた。さらにその成果の一部を国際シンポジウムで発表をすることができた。ただし研究の過程から、「小婦人」をより詳細に分析するためには、占領下における梅娘文学の全体の文脈をとらえる必要があることに気づいた。これについて令和二年度に引き続き検討を行う予定である。 令和二年度に戦前・戦後の梅娘作品におけるテーマの連続性について検討するため、当該年度では1950年代の梅娘作品に関して中国国家図書館あるいは上海図書館で調査を行う予定であったが、年度末に中国への渡航が難しくなり実現できなかった。そのため日本国内で入手できた資料をもとに分析に着手し、とくに梅娘の女性観にみえる戦前戦後の連続性について考察を行った。 以上のことから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和二年度は、梅娘の長編小説「小婦人」をより詳細に分析するために、占領下における梅娘文学の全体の文脈をとらえる作業を行う。その上で改めて「小婦人」について再検討を行う。占領下における梅娘の文学作品については手元にあることから、スムーズに研究を進めることができる見込みである。さらに当初の予定どおり、戦前・戦後の梅娘作品におけるテーマの連続性について検討する。もし可能であれば中国への資料収集を行い、渡航が難しければ日本国内で手に入る資料に基づいて分析を進める。とくに中国知識人の主体性の観点から戦前戦後の連続性について明らかにしたい。 本研究の最終年度である令和三年度は、基本的には当初の予定通りこれまでの成果のとりまとめを行う。さらにこれまでの研究の過程で研究を巨視的に捉えるために日本やアメリカ、ヨーロッパの戦時期の事例との比較検討の必要性があると気づいたことから、これについて本研究の全体像が見渡せる最終年度に検討を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、年度末に海外への渡航が難しくなり、予定していた中国への資料調査や韓国での国際シンポジウム参加を取りやめたことがある。シンポジウムについては令和二年度の開催に延期されたので、次年度使用額についてはその旅費として使用する予定である。 令和二年度分の助成金については予定通り使用する予定である。
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