2021 Fiscal Year Research-status Report
日本占領地における中国知識人の「抵抗」と「協力」の交錯――女性作家・梅娘を中心に
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18K00346
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
羽田 朝子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (90581306)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 梅娘 / 日本占領地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本占領地における中国知識人の「抵抗」と「協力」が交錯する精神について検討し、とくに日本占領下の北京で活躍した女性作家・梅娘の文学に着目し、その複雑で矛盾に満ちた精神を読み解くものである。とくに梅娘の言論や文学に表出された近代性と民族主義の相克、戦前・戦後のテーマの連続性について着目する。 当該年度は、まず前年度に引き続き、梅娘の戦争末期の複雑で矛盾に満ちた精神が反映された長編小説「小婦人」について、再検討をおこなった。占領下における梅娘文学の全体の文脈を踏まえた上で、モダンガールの形象を中心に梅娘が描く女性像について再検討し、その上で「小婦人」に描かれた対照的な二つの女性像について掘り下げ、そこに表出された占領下の中国知識人の複雑なナショナル・アイデンティティを明らかにした。 次に、令和元年度に準備を行った戦前・戦後の梅娘作品におけるテーマの連続性について再検討し、論文化の作業を行った。1950年代に『亦報』や『新民報』、『大公報』で発表された梅娘作品のうち、とくに随筆作品を分析対象とし、梅娘の女性観にみえる戦前戦後の連続性について考察を行った。これにより、梅娘は戦前の占領下において日本女性をモデルにした良妻賢母主義や近代的主婦像を支持していたが、戦後1950年代に発表された作品にもその女性観が引き継がれたことを明らかにした。 このほか、当初の予定になかったものの、戦前・戦後の連続性について、梅娘の童話創作の点から検討を行った。梅娘が日本滞在中に日本の童話文化に触れ、日本滞在中や帰国後に日本の童話作品を翻訳・翻案しており、その経験が梅娘の戦争末期や戦後の童話創作に影響を与えていたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、占領下における梅娘文学の全体の文脈のなかで梅娘の長編小説「小婦人」を検討する作業を行い、これにより「小婦人」における近代女性像とナショナル・アイデンティティについて検討したが、その研究の過程で、より深い考察のためには、それに至るまでの梅娘作品を再検討する必要性があることに気づいた。これについては、さらに資料を収集する必要があり、国内(東洋文庫、国立国会図書館)での調査が必須であったが、新型コロナの感染拡大により国内移動が制限されたため実施できなかった。 また戦前・戦後の梅娘作品におけるテーマの連続性については、とくに1950年代の作品のうち随筆に着目したが、小説については未入手のものがあり、分析に着手していない。小説の収集のため中国(北京国家図書館あるいは上海図書館)での調査が必須であったが、上記と同様の理由により実現できなかった。 これら資料収集について令和四年度に状況が緩和した後に行い、それをもとに検討や考察を深める予定である。 以上のことから、進捗状況はやや遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和四年度は、当該年度に実施できなかった資料調査を行い、必要な資料を収集する。もし可能であれば中国で資料収集を行い、渡航が難しければ日本国内で入手できるものを中心に調査を行い、その資料に基づいて分析を進める。 以上を行った上で、これまでの成果のとりまとめを行う。梅娘作品の女性像やナショナル・アイデンティティについて検討を行い、論文化の作業に着手する。さらに令和四年度が最終年度であることから、本研究を巨視的に捉えるために日本やアメリカ、ヨーロッパの戦時期の事例との比較検討を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、新型コロナの感染拡大により国内移動や海外渡航が制限されたことから、予定していた資料調査が実施できなかったことによる。令和四年度には少なくとも国内調査(東洋文庫、国立国会図書館)は行いたいと考えている。次年度使用額についてはその旅費として使用する予定である。
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