2018 Fiscal Year Research-status Report
装飾農園の変容にみるイギリス農業コミュニティの発展と継承
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18K00372
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
今村 隆男 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90193680)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 装飾 / 農園 / ユートピア / 庭園 / 農業改革 / グランド・ツアー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、当初の計画の通り18世紀における「装飾農園」の誕生と初期の発展について研究を進めた。また、夏季長期休暇にはおよそ2週間の現地調査及び資料収集を行った。詳細は、以下の通りである。 まず、背景となる18世紀後半の農業の近代化について調査した。この時代はノーフォーク農法の開発に象徴されるようにイギリスの農業が近代化し始めた時期で、アーサー・ヤングの『農業年鑑』(1784年~)や農業委員会の『農業委員会通信』(1797年~)などに寄せられた様々な論考の中に近代化の問題点が考察できる。これと併行して、18世紀前半から登場していた風景式庭園に農業が持ち込まれる経緯についても考察した。この時代の造園主たちの多くは若き日にグランド・ツアーを経験しているが、彼らはイタリアにおいて数多くの庭園を訪問しており、そこでの体験が帰国後の自らの造園にいかされているケースが見られる。イタリアでの訪問先の中に、実際的な農業の要素が敷地内周縁部の農業施設だけではなく領主の本館にも導入されている庭園があり、夏季の現地調査においてその具体的な事例を確認し資料収集を行なった。 さらに、イタリアの影響を受けたと考えられるジョン・プローの『装飾農園』(1795年)などを検証し、論文としてまとめた。この作品が出版されるより少し前にロイヤル・アカデミーが設立されたが、初代会長ジョシュア・レノルズの「第1講話」によればアカデミー設立の目的はイギリスの「装飾」を洗練させることだった。その影響を受けたと思われるこの作品においても、農園の本質的な部分である実際的な生産性だけではなく、建物の美観、即ち「装飾」性も極めて重要であるということが著者の基本方針であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
装飾農園に大きな影響を与えたと思われるイタリアのヴィラ・エモなどの庭園の現地調査や資料収集を行い、また、装飾農園の実態の一端を明らかにする文献資料であるプローの二つのパターン・ブック『田園建築』と『装飾農園』について詳細に検証できた。 これら、イタリアの事例とその影響を受けたイギリスの建築書は、イギリスの装飾農園の18世紀における誕生と発展の過程を確認するための重要な指標であり、18世紀の装飾農園について明らかにするという計画段階での初年度の目標には近づくことができた。しかし、その背景となる農業の近代化自体については20世紀後半以降の歴史研究書のいくつかには当たれたが、第一次資料である『農業委員会通信』はまだ十分に解読できていない。『農業委員会通信』は前回の科研の研究「イギリス近代の村の発展における景観の意義」においてもその中に含まれる建築や村に関わる論考を取り上げたが、本書に掲載されている文章の多くは農業実践そのものに関わるものであり、そこに庭園と農業との結びつきを探る手がかりがある。しかし、その数が予想外に多いため未だ一部しか読めておらず、この方面での進展はやや遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、進展が遅れている18世紀における農業史の研究を進め、前年度分の研究計画を完了しておきたい。イギリスの農業革命の詳細については先行研究が多く、そのまとめが必要になる。特に、『農業委員会通信』の中で研究が進まなかった部分を補いたい。 本年度の計画は、そのあとの18世紀末から19世紀初めにおける「装飾農園」の展開を対象としている。最初に、この時期のパターン・ブックなどの資料や実際の装飾農園の造園の動きについて考察する。フランス革命からナポレオン戦争時のイギリス農業の変化・発展については、多様な立場からの研究がなされていると予想できるので、資料収集を行いながら研究を進めていきたい。 18世紀末から19世紀初めという時代は、ちょうどロマン派文学の隆盛期に重なる。この時期には、ロマン派詩人のコオルリッジのパンティソクラシー計画などに代表されるようなユートピア計画が現れた。それらの理論的根拠となったユートピア思想について、トマス・モアの思想からの変化を辿ってこの時代特有の理想郷論を考察し、さらにその実践例について調査していきたい。
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Causes of Carryover |
夏季長期休暇の最中に海外において現地調査および資料収集を行なったが、当初の計画では3週間の滞在を予定していたのが諸事情により2週間にせざるをえなくなった。そのため、海外渡航費用が少し減額になった分、当初予算の幾分かを次年度の使用に回すことになった。来年度は、その使用額を文献資料の購入など、今年度の予定変更を補うために使用する予定である。
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Research Products
(1 results)