2020 Fiscal Year Research-status Report
装飾農園の変容にみるイギリス農業コミュニティの発展と継承
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18K00372
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
今村 隆男 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90193680)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 装飾農園 / イギリス庭園 / 理想郷 / 農業 / J. C. Loudon |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、18世紀前半に誕生した装飾農園の出発点であるLeasowesやWooburnの意義を再確認し、その上でそれが19世紀にはいってどのように継承され変貌していったのかという問題についてJ. C. Loudonの理論や造園実践を中心に考察することに取り組んだ。まず、Leasowes は農業は前景化されないながらも最初の装飾農園として、Wooburn の方はSwitzerの理論を実現した実質的な農業庭園として、それぞれ価値を有していることが明らかにできた。次に19世紀にはいってから装飾農園がどのように発展したのかについての研究部分をまとめておきたい。この時代に科学の発達による農業の近代化への関心が確実に高まったことが重要であるが、その一方でピクチャレスクな風景美へのこだわりがやや形を変えながらも残る中で、農業を含む庭園の美観についても考慮しながら造園する傾向は失われなかった。注目したのは19世紀の前半にイギリスの造園界を牽引したJ. C. Loudonで、彼は近代農業を積極的に農業庭園に持ち込んだが、同時に庭園美への関心も維持し、生産性と美の結合を実践しようとした。具体的には、19世紀初めの都市部での人口増加に対応する必要から科学農業を導入しつつ、生垣や18世紀庭園にはなかった花々を庭に持ち込み、さらに建物や道路の配置に気を配ることで園内の美を高めようとした。J. C. Loudonはイギリス最初の公園(植物園)の開設やグリーン・ベルトの設置を提言するなど社会環境の改善に貢献したが、彼のこのような独自の視点は本研究の対象である庭園の造園にもいかされたことが重要であると思われる。また、公共性や住宅の提供、失業対策などといった産業化社会のニーズに応える方向性は、J. C. Loudonのみならず19世紀を通した共通の関心事であり、これらの問題への視点は庭園論議にも間接的に影響している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和2年度の夏期休暇に本研究計画の中で二度目の現地調査を行いイギリスの装飾農園や19世紀の理想郷的コミュニティの調査研究を行う予定にしていたが、残念ながらコロナ禍のせいで渡欧が実現しなかったため実施できなかった。また、国内の移動も制限されたことから、その影響も小さくない。資料を対象にした上記の研究の方はおおむね進める事ができたが、国外、国内での調査研究が十分に行えなかったおかげで予定していた計画の半分くらいしか進んでいない。従って、研究は全体として「遅れている」とせざるを得ない。一方で、19世紀の庭園を取り巻く社会変革についての研究を予想以上に発展させることができ、その中で公共性や環境意識などの萌芽や展開を視野に入れて進めることができたのは収穫であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年、延期しなければならなかった現地調査であるが、現時点では令和3年度も夏季には実施できない可能性が高いと見込まざるを得ない状況にある。年度最後の春休みに実施できたとしても、研究期間のまさに最後の月になるため、その結果をまとめることは実質的に不可能である。また、通常でもイギリスにおいて庭園が公開されるのは4月以降のところも多いため、3月の現地調査は収穫が期待できない。従って、海外での研究が進められるかどうか次第で、今年度が研究期間の最後の年度であるものの期間を1年間延長しなければならなくなる可能性も視野に入れている。国内で進められる研究の計画であるが、まず19世紀に発達した「模範農園(モデル・ファーム)」などの農園形態についての文献を検証し、J. C. Loudonの提唱する農業を取り込んだ庭園との関わりを明らかにしたい。また、近代農業の進展と装飾農園の変貌との関係で、近代の庭園に関わる研究では肝要となる環境問題がどのように捉えられているのかも考察すべきであると考えている。その上で、それ以降の、すなわち19世紀末あたりから20世紀に入ってからの「装飾農園」の継承発展について、理想郷の実現の試みとの関わりも視野に入れながらまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度からの残額に加え、予定していた海外渡航が実施できなかったため、そのための費用が残額として残った。そのほか、年度を通して研究活動が通常の時期と同じようには行えなかった影響も小さくない。次年度の研究費の使用に関しては、延期した海外渡航が実施できるのかどうかによって大きく変わってくる。可能ならば、海外渡航費用としての研究費の使用に加えて、予定していた文献研究を進めるために年度予算を残額も含めて使用する予定である。
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